「Oracle Cloud VMware Solution」(OCVS)は、「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)上に構築されるPaaS形態のVMwareサービスである。2020年に提供が開始され、VMwareワークロードをOCI上で実行するためのソリューションとして、利用企業が増えてきている。
日本オラクルの近藤暁太氏
日本オラクル 事業戦略統括 事業開発本部 担当シニアマネジャーの近藤暁太氏は、ソリューションの特徴について、(1)短期間、低リスクでのクラウド移行、(2)基幹システムの安定運用、(3)クラウドの最大限活用――の3つを挙げる。
(1)では、既存のVMware資産をそのまま移行することで、オンプレミスと同じネットワーク構成やセキュリティ設定を維持し、運用管理ツールや運用手法も引き継げるため、移行のリスクを最小限にでき、期間も短縮可能である。また、事前に本番と同じ構成・規模でテストすることで、移行後の基幹システムの安定運用を実現する。
「ユーザー環境のプライベートネットワーク内に、他のクラウドサービスと一緒に展開できるのが、他のVMwareサービスとの大きな違いになる。ユーザーがVMware仮想化環境を制御でき、オンプレミスと同じ構成・設定で運用が可能である。他のクラウドサービスとの連携が容易な点も強みとなっている」(近藤氏)
OCVSと他社サービスの違い
オンプレミスからの移行イメージ
同氏は続いて、「(VMwareの)移行時にはサードパーティーのソフトウェアのサポートの有無も重要になる。管理権限がないとサードパーティーのソフトウェアが使えない場合があるが、OCVSはユーザーが全ての管理権限を保持できるため、全ての機能が使用可能だ」と説明する。
また、予測しづらいアウトバウンドのデータ転送料金を分かりやすく低コストで提供している点も特徴とする。Oracle Cloudの場合は、インターネット経由の場合は月10TBまでデータ転送料が無料で、それを超過しても1GB当たり3円と安価である。「他社の3分の1以下」(近藤氏)。さらに、閉域網接続であれば、データ転送料は無料になる。「ハイブリッド環境での利用で特に多くのメリットがある」と近藤氏は語る。
BroadcomによるVMwareの買収で、コストアップの影響などが懸念されているが、これについて同氏は、OCVSが複数年にわたって価格固定で利用できる点を強調した。
さらに、Microsoft製品のライセンスの持ち込みが可能な点も大きな差別化の一つだと付け加えた。
(2)では、OCVSが「基幹システムの安定稼働に最適な環境」であるといい、本番環境の変更をユーザーが制御でき、変更時には十分なテストが可能な点を理由に挙げた。
加えて、近藤氏は「OCIでは、データセンター内はハードウェアをグループ化した3つの障害ドメイン(FD)で構成している。複数のFDに分散してVMwareのクラスターを構成し、標準でハードウェア障害に対応できる。さらに複数リージョンによる災害対策(DR)サイト構成にすることで、国内で高い可用性を実現できる」とした。
(3)については、「クラウドネイティブへのシステムの拡張・移行が容易」「クラウドサービス利用時に、システム間の接続が高速で安定」「他社クラウドへのシステム拡張も容易」という特徴を挙げ、「クラウドを最大限に生かせるVMware仮想化環境」であるとアピール。
OCVSの導入企業として、サンドラッグと大日本印刷(DNP)の事例が紹介された。
サンドラッグは、店舗拡大に伴い、既存のVMware仮想化環境の増強が課題となっていた。そのためクラウドへの移行を検討していたが、OSやミドルウェアのクラウドの制限により、移行には大きな変更が必要だった。OCVSを活用することで、既存システムをほぼ変更することなくクラウドへ移行することが可能となり、移行期間と工数を大きく削減できた。今後は、PaaSサービスの利用やシステムの集約によるさらなるコストの削減も可能になったとのこと。
DNPでは、OCVSを活用して、700以上の仮想サーバーをオンプレミス環境と同じアーキテクチャーや管理性を維持しながら、クラウドへ移行した。また、統合データベース基盤を「Oracle Exadata Database Service」に移行し、オンプレミス環境より高い性能、可用性、データセキュリティ構成を実現しながら、コストも最適化できた。さらに、東京、大阪リージョンを活用したDR構成を構築することで、より低コストで基幹システムに不可欠な高いレベルの可用性とデータ保護を実現しているという。