IBM傘下でオープンソースソフトウェア大手のRed Hatは、人工知能(AI)最適化のスタートアップであるNeural Magicの買収を完了した。この買収は2024年11月に発表されていたが、米国時間2025年1月13日に取引が完了した。これは、ハイブリッドクラウド環境全体でAI能力を強化するという同社の戦略において重要な一歩となる。
買収額は明らかにされていないが、Neural Magicはこれまでに、Andreessen Horowitz、New Enterprise Associates、Amdocs、Comcast Venturesなど、さまざまな投資家から5000万ドルの資金を調達している。この買収が安価なものではなかったことは確かだ。買収がスムーズに進んだ要因の一つとして、Neural Magicの最高経営責任者(CEO)がRed Hat 元最高技術責任者(CTO) 兼 エグゼクティブバイスプレジデントのBrian Stevens氏だったことも挙げられる。
買収が発表された当初、Stevens氏は次のように述べた。「Neural Magicは、AIの未来をオープンにするというビジョンを掲げている。企業が摩擦や制限なくAIから強力なイノベーションを得られるようにすることを使命としている。オープンソースモデル、最適化アルゴリズム、推論システムがその中心にあり、企業は独自のAIモデルを所有し、自社のデータセットに合わせて非公開でカスタマイズし、クラウド、データセンター、エッジなどのマルチベンダーインフラストラクチャーに展開できるようにする」
Neural Magicは、マサチューセッツ工科大学(MIT)発のスピンオフ企業として2018年に設立された。生成型AI推論のワークロードを高速化する革新的なソフトウェアとアルゴリズムを開発している。
同社の技術により、複雑なAIモデルを標準的なCPUやGPUなどの汎用ハードウェア上で効率的に実行できるようになり、高価な専用AIアクセラレーターの必要性を低減する可能性がある。Neural Magicの買収により、Red Hatは次の主要技術を得ることになる。
- vLLM Expertise:Neural Magicは、効率的な大規模言語モデル(LLM)の提供を目的としたオープンソースプロジェクトである「vLLM」の主要なコントリビューターである。vLLMは既に「Red Hat Enterprise Linux(RHEL) AI」と「Red Hat OpenShift AI」の推論エンジンとして採用されている。
- DeepSparse:ニューラルネットワーク実行に必要な計算とメモリーの量を削減するアルゴリズムにより、汎用CPUでGPUクラスのパフォーマンスを実現する推論実行環境。具体的には、LLMに加えて、DeepSparseはコンピュータービジョン(CV)や自然言語処理(NLP)にも有効である。
- SparseZoo:DeepSparseを利用する際、Neural Magicは既に最適化されたCV、NLP、LLMモデルのリポジトリーを提供している。
- モデル圧縮技術:Neural Magicは、モデルの量子化とスパース化のための高度な手法を開発しており、精度を大幅に損なうことなく、モデルのサイズと計算要件を大幅に削減できる。
- クロスプラットフォーム最適化:Neural Magicの技術により、クラウド、データセンター、エッジ環境全体に展開するためのAIモデルの最適化が可能になる。
これらの技術は、Red Hatが目指すハイブリッドクラウド環境全体でのAIワークロードのアクセス性、効率性、展開の容易さを向上させるものであり、高価な専用AIハードウェアの必要性を減らす可能性がある。端的に言えば、Neural Magicの技術により、ユーザーは低コストでAIを利用できるようになる。そして、その中心にはオープンソースのAIアプローチがある。
Red HatのCEOであるMatt Hicks氏は声明で、「Neural Magicの画期的なAIイノベーションにより、ハイブリッドクラウドに重点を置いた当社のAIポートフォリオを補完できることをうれしく思う。これにより、オープンソースの『Red Hat』であるだけでなく、AIの『Red Hat』でもあるという当社の取り組みをさらに推進できる」と述べる。

提供:Bing Guan/Bloomberg via Getty Images
この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。