デジタル貿易黒字を生み日本を良くし、存在意義を発揮しよう--ソフトウェア協会の田中会長

大河原克行

2025-01-16 10:24

 ソフトウェア協会(SAJ)は1月15日、東京・内幸町の帝国ホテルで「令和7年新年賀詞交歓会」を開催した。会場には、会員企業や業界関係者、政府関係者など約700人が参加。会長の田中邦裕氏(さくらインターネット 代表取締役社長)らが新年のメッセージを伝えた。

ソフトウェア協会 会長の田中邦裕氏(さくらインターネット 代表取締役社長)
ソフトウェア協会 会長の田中邦裕氏(さくらインターネット 代表取締役社長)

 あいさつした田中氏は、「2年前(2023年)の賀詞交歓会で『アゲ』という話をした。景気が良くなり、売り上げや利益が増加する一方で、金利や人件費、ドルまで上がり、良い『アゲ』ばかりではない。成長には大きな変化を伴う。変化せずに既得権を守るよりも、変化する側に立って成長を享受する方がいい」と切り出した。

 続けて、「人手不足は続いているが、IT業界には人が入ってきており、人材育成の企業は調子がいい。私は沖縄に住んでいるが、スキューバダイビングの若いインストラクターたちが『IT業界に行きたい』という。家からリモートで働け、PCを打てばよく給与が高いというイメージがあるようだ(笑)。初任給の上昇が話題だが、これだけ賃上げが進めば日本は豊かになる。だが、物価上昇が大きく海外の人たちが入ってきて、那覇市内には那覇の人たちが住めない状況も生まれている。しかも、沖縄県の付加価値の3割は県外に流出している。例えば、沖縄県のホテルの予約は、東京やサンフランシスコの会社が行うという状況だ」と、自らを取り巻く状況を説明した。

 「デジタル業界は富を集中させる傾向があり、デジタル貿易赤字が生まれている。これを解決しないと、デジタル化が進むほど国民が貧乏になり、私たちが役割を果たしていないことにもなる。日本を良くするためにデジタルが存在しており、これを使って国や地域が良くなることで、私たちの業界の存在意義が高まる。高給で人を引き付けている業界ではあるが、付加価値を高めることができなくては、日本のGDP(国内総生産)が下がるだけだ」と危機感を募らせた。

 また、ITやデジタルの利用を促進し、全ての産業が豊かになってこそデジタル産業の存在意義があるともコメント。「外資企業が日本でもうけるのはいいこと。大切なのは、外資企業がもうけた以上に、(日本)国民が豊かになることだ。デジタル貿易赤字の解消に注力するよりデジタル貿易黒字を作ることが必要で、そのためには競争力のあるプロダクトを作り、もっと使ってもらわなくていけない」とした。

 「自分たちの会社だけがもうかるのではなく、社会のために何ができるのかを考える必要があり、富を増やし、付加価値を増やすことが大切。それによって日本を良くすることができ、『ITやデジタルを買ってよかった』と言われるようになれば存在意義が高まる。ビジネスを通じて国が良くなることで、われわれがすごくもうかるという状況を作りたい」と述べた。

 田中氏は、SAJの会員数が約800社に増加し、会費収入が過去最高に達したことも報告。「会費収入だけで活動ができることは、外圧がかからず健全な状態を維持できる」と語った。

経済産業副大臣の古賀友一郎氏
経済産業副大臣の古賀友一郎氏

 来賓としてあいさつした経済産業 副大臣の古賀友一郎氏は、「2024年は30年ぶりの高水準の賃上げや設備投資、名目GDPの600兆円を超えなど経済的には明るい兆しがあった。賃上げは最大のテーマとなっており、中堅・中小企業を含め継続的な賃上げを実現し、好循環につなげられるかが2025年のポイントになる。政府として総合経済対策や補正予算を総動員して前向きな流れをしっかりと作っていきたい。会員各社には賃上げや設備投資、価格転嫁などの面で協力をしてほしい」と呼びかけた。

 また、「政府は2030年度までに10兆円以上の公的支援を行う新しい枠組みの『AI・半導体産業基盤強化フレーム』を策定し、この枠組みを最大限活用して生成AIの活用や、社会課題解決の基盤となる半導体供給を強固なものにしていく。『第7次エネルギー基本計画』と『GX2040ビジョン』も打ち出し、DXやGX(グリーン変革)の進展に伴い電力需要が増す中で再生可能エネルギーや原子力を最大限活用する方向にかじを切った。脱炭素電源を新たな産業集積の起爆剤にする」とも述べた。

 さらに、「生成AIは内燃機関やインターネットに次ぐ歴史的な可能性を秘めた技術だ。新たな価値を作り社会を豊かにする千載一遇のチャンス。人口減少の影響で生産性向上に対する積極的なニーズがあり、日本だからこそといえるAIのポテンシャルを最大限に引き出し、高い競争力を持つサービスの開発や活用を促進し、イノベーションを創出することが重要。政府もAI開発競争力の強化に取り組む。2024年2月には、『AIセーフティ・インスティテュート』を設置し、AIのリスクに対する管理能力を向上させ、AIやデータ活用を阻む企業情報システムのモダン化、AIの導入事例の創出を進めていく。変化の激しいAIへ迅速に対応し、“アゲアゲ”のソフトウェア業界になることを期待している」と語った。

衆議院議員の平井卓也氏
衆議院議員の平井卓也氏

 衆議院議員の平井卓也氏は、「自治体のデジタル担当者は、ほぼ100%、AIを利用している。自民党でも1年半ほど生成AIを利用しているが、人間の能力を低下させないという懸念がある。掛け算や割り算ができない人に電卓を渡すと、その人は永久に掛け算と割り算できないままであるのと同様に、コーディングができないのにAIでコードを書く人たちが増えると、おかしい部分を指摘できる人がいなくなる。「政治家のあいさつ文もほとんどAIで作っている。そうなると自分で考えなくなる。これは進化なのか、退化なのか、AIは、人間の能力を高める方向で使わないとまずい。取締役会の活性化のために、社外取締役の役割をAIが行う企業も出てきた。人だと社長に言いにくいが、AIは本質をズバズバ突いて意見を言うため、その意見を採用するという話もある。これもどうなのか。本来、人間がやらなくてはならないことだ。最終的な判断は人間に委ねられているが、そのギリギリのところまでAIが入ってきている。AIの活用が前提の世界で、みんなを豊かにできるのかといったことを考えなくてはならない」と指摘した。

 さらに、「今後、AIがロボティクスとつながり、フィジカル空間に出てくる。だが、それぞれのロボットは垂直統合で作られている。日本製ロボットOSを作る時代になってきたといえ、今が最後のチャンス。ここにベット(賭ける)することが大切だ。半導体投資よりもリスクは小さい。OSを作る人材を日本中から結集させ、旗を振ろうと考えている。2025年は、新たな未来が始まる予感しており、まだ勝者が決まっていない状況だ。SAJ会員の中から大きく踏み出す企業が増えることを期待している」と語った。

情報処理推進機構 理事長の齊藤裕氏
情報処理推進機構 理事長の齊藤裕氏

 乾杯の音頭をとった情報処理推進機構(IPA) 理事長の齊藤裕氏は、「ソフトウェアが世界を変えていく根幹にある。IPAは『デジタルアーキテクチャ・デザインセンター』を設置し、『デジタルプロダクトパスポート』(DPP)による業界や国境を超えた企業間取引の実現に取り組んだり、デジタル基盤センターで企業が活躍できる基盤作りに取り組んだりしている。『デジタル人材センター』ではDXやAX(AI変革)に関する人材育成を行い、『産業サイバーセキュリティセンター』では、経済安全保障の観点からも活動している。半導体領域でもソフトウェアを含むエコシステム構築を支援しているところだ。SDV(ソフトウェア技術を駆使した自動車)のように、ソフトウェアはさまざまなところに影響する。良い社会と良いビジネスを創出するといった観点で(SAJ)協力をしていきたい」とした。

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