現在、オープンソースソフトウェアは世界を動かしている。しかし、こうはならなかった可能性もある。Open Invention Network(OIN)の設立時、オープンソースは激動の時代にあった。2000年代半ば、「Linux」は著作権侵害や特許侵害の訴訟によって、存続の危機に立たされていた。さらに、悪名高いSCOの訴訟や、Linuxが多数の特許を侵害しているとのMicrosoftの主張が、エコシステム全体に暗い影を落としていた。
ビジネスリーダーらは不安を抱いた。SCOによる攻撃は下火になっていったが、正式には特許主張事業体(Patent Assertion Entity:PAE)として知られるパテントトロールの攻撃が拡大していた。そこで、IBM、Novell、Philips、Red Hat、ソニーなど、オープンソースを支持する業界大手によって設立されたのがOINだ。Linuxやオープンソース技術を標的とした特許の脅威に対する防壁として2005年に設立されたOINは、世界的なコミュニティーへと進化し、参加する組織はスタートアップ企業から多国籍企業まで4000を超え、計300万件以上の特許や特許出願を保有している。
OINの法的戦略の中核を成すのは、ロイヤリティーフリーのクロスライセンス契約だ。メンバーがLinuxシステムに対して自らの特許を行使しないことに同意しているため、オープンソースプロジェクトを訴訟から守る強力なネットワーク効果が生まれる。OINの最高経営責任者(CEO)であるKeith Bergelt氏は、このモデルについて次のように説明した。「主要なオープンソース技術の特許リスクを軽減することで、幅広い参加を可能にし、オープンソースの採用を促進している」
当時うまくいったこのアプローチは、現在も引き続き有効だ。
オープンソースの価値を理解する企業が増えるにつれて、参加する企業の数が増加していった。実際に、2018年にはMicrosoftがOINに加盟しただけでなく、自社の6万件の特許ポートフォリオ全体をOINの全メンバーに提供し、世界に衝撃を与えた。
なぜそうしたのか。ビジネスの面で理にかなっていたからだ。Microsoftのバイスプレジデント 兼 副法務顧問であるBurton Davis氏は、2022年にこう説明している。「Microsoftはオープンソースに全力を注いでおり、オープンソース分野全体で幅広い投資と協業を続けている。オープンソースエコシステムの恩恵を受け、積極的にエコシステムに参加しているMicrosoftは、この貴重なリソースを特許リスクやその他の問題から保護するために、オープンソースコミュニティーと広く連携して、役割を果たすべく尽力している」
年月を重ねるにつれ、OINの取り組みはLinuxを越えて、幅広いオープンソース技術へと拡大していった。特許クロスライセンスの範囲を定めるOINの「Linux System Definition」は、少数のコアパッケージから4500以上のソフトウェアコンポーネントやプラットフォームへと広がり、「Android」「Apache」「Kubernetes」「ChromeOS」なども対象となっている。オープンソースは、金融、自動車、通信、人工知能(AI)など、さまざまな業界の基盤となっているため、このような規模拡大は極めて重要だ。
OINの防衛の取り組みはライセンスだけにとどまらない。特許発行前の第三者による情報提供、先行技術の収集、無効性の分析、査定系再審査によって、特許の脅威を積極的に無効化している。例えばOINは、悪名高いパテントトロールRothschild Patent ImagingによるGNOME Foundationへの特許訴訟を退ける上で極めて重要な役割を果たした。
OINは2019年、IBM、Microsoft、The Linux Foundationとの協力の下、Unified PatentsのOpen Source Zoneのイニシアチブに数百万ドル規模の資金を提供し、オープンソースソフトウェアを標的としたパテントトロールへの防御をさらに強化した。これらの企業や組織は、パテントトロールの特許はそもそも付与されるべきではなかったと主張することで、パテントトロールを攻撃する。このアプローチは功を奏している。
業界リーダーは常に、OINをオープンソース革命の立役者として高く評価している。The Linux FoundationのエグゼクティブディレクターであるJim Zemlin氏は、OINの取り組みによって「中核技術の特許保護が進み、企業がソフトウェアスタックの上位の製品を差別化する技術に投資して、イノベーションを起こせるようになった」と指摘する。Red Hatの最高技術責任者(CTO)であるChris Wright氏は、OINの取り組みが「通信、クラウドコンピューティング、AIなどの分野における驚異的なイノベーションにつながった」と強調した。
GoogleのOpen Source Programs Officeの責任者であるAnne Bertucio氏は、OINの貢献を次のように総括した。「オープンソースはコンピューティングの中核を成しており、技術の共有、共同開発、発展において極めて重要だ。OINの20年間の取り組みは、特許を用いた攻撃からオープンソースエコシステムを守り、オープンに活動する能力を保護する上で不可欠だった」
オープンソースがAIのセキュリティ、自動車、エネルギーといった新たな分野に拡大するに当たり、OINは今後も成長し、デジタル経済の原動力となる技術を守り続けていくだろう。

提供:CSA Images/Getty Images
この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。