Googleがその検索範囲をアートの領域まで拡張する「Google Art Project」が公開された。これは、世界17の美術館から486作家、1000枚以上の作品をオンラインで鑑賞できるようにするものだ。Washington Post紙のインタビューによると、作品は1枚平均70億ピクセル以上の高精度で、本物を見るよりも遥かに微細なディテールに迫ることができる。更に、「Google Street View」のテクノロジーを援用して、美術館の中を歩き回ることも可能だ。
見ることのできる作品はまだ限定的ではあるが、参加している美術館には、ニューヨークからはMoMA(Museum of Modern Art)、ロンドンのTate、アムステルダムのVan Gogh Museumなど錚々たる名前が並び、セザンヌ、ゴッホ、レンブラントなど大物作家の作品を、その表面のひび割れまで見ることができる。その精度は実物以上にそのテクスチャーを感じることができる(ゴッホの作品のゴツゴツしたテクスチャーにズームすると本当にすごい)。
参加した美術館がここまでの精度で作品の画像を見せることに同意したことも驚きであるが、Washington Post紙は、Googleがこうした画像へのアクセスを独占的にコントロールできるようになるのではないかとの懸念を示している。また、こうした作品の提示、つまり、実物と対峙する必要はないが、にも拘らず実物以上の高精度画像が提供される、という作者が決して意図していなかった提示の方法は、美術作品の意味や展示の方法にも問いを投げかけることとなるだろう。
Google Art Projectが見せてくれる高精度な画像には素直に喜んでしまうのだが、果たして我々は美術作品の何を見たいと思っているのか、そして作者は何を見せたかったのか。特にGoogle Art Projectで鑑賞できる作品は、オンラインでの鑑賞を想定したデジタル作品ではなく、インターネットより遥か以前の作品だ。であるが故に驚きがあり、問題の提起があるのである。
筆者紹介
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。