ハイブリッドクラウドの効果を上げる典型例としては、プライマリ/セカンダリ構成のNASを拡張したり、複数のバックアップを取ったりする代わりにパブリッククラウドを導入し、拡張性を高めながら運用コストを下げる方法があります。
データの再配置という観点では、下図の青枠がそれに該当します。しかし、昨今の非構造化データのように、データの利用頻度が高かったり、データサイズが大きかったりする場合は想定外のコストアップ要因となります。プライベートクラウド(オンプレミス)へ回帰するにしても、データの利用頻度を考慮して無駄な移動を減らすなど、ワークフローの簡素化が必要です。
今回は、多工程で複雑なワークフローを持つ映像制作の現場を例にハイブリッドクラウドを利用する流れを考えます。下図は、映像現場の制作フローです。左下のIngest(データ取り込み)から、時計回りに右下のPlayout(配信)まで、多くの共同作業をネットワーク経由で進めています。
オリジナルデータのコピー作成からデータ取り込みまでの工程では、高速・大容量な外付けストレージを用いて編集・レンダリング・カラーグレーディングを行うことも多いでしょう。外付けストレージで流れ作業的に進めていく方がシンプルで効率がいいこともありますが、分業が進むに連れて並列処理が求められ、逐次処理では済まなくなるのが現状です。
ワークフローの効率化を配慮したストレージ階層を構築するには、制作データを単にアクティブアーカイブの概念でティアリングするのではなく、青枠部分をパブリッククラウドに切り出してみます。これをシステム構成図にして表すと下図のようになります。
制作作業の中心となる部分にはオンプレミス環境を採用し、必要とされるパフォーマンスと堅牢性、セキュリティを確保します。オブジェクトストレージの導入により、プライマリNASのストレージを最小限にとどめながら、アクティブアーカイブへの拡張性と信頼性を確保します。
具体的には、トランスコードと配信部分をパブリッククラウドで処理しています。映画、テレビ、インターネットなど、さまざまなメディアに対応したフォーマットへ変換して迅速に配信するには、トランスコード以降を切り出すことで、前行程への負担を軽減するとともに並行での作業を可能にします。
さらに一歩進めて、撮影現場から上がってくるオリジナルデータをオブジェクトストレージに取り込むようにしてみましょう。データ取り込み → 編集 → 配信 → アーカイブの流れに合わせて適切な速度・容量のストレージを準備していましたが、可用性・堅牢性の高いアクティブアーカイブに取り込むことで、その後の全ての作業経過も含めて集中管理し、最後はそのまま長期保全するというように統一ストレージとしての役割を担います。初期工程からアーカイブまでこなせる共有データプールに取り込むことで“流れ”が変わります。