第15回 EA推進に必要な民間企業向け参照モデル

相原 慎哉(みずほ情報総研) 2005年08月19日 10時00分

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

●EAの参照モデル

 日米両政府のEA(Enterprise Architecture)への取り組みでは、近年“参照モデル”の整備と活用が重点的に行われている。参照モデル(Reference Model)とは、EAの構築作業を行うための標準的な辞書、用語集、あるいは分類体系である。モデルという名称が付いているものの、各アーキテクチャで作成している図表類(ダイアグラム)とは形式、性質共に異なる点には注意が必要だ。ダイアグラムを作成するための標準的な素材を提供するパーツ集と考えたほうが良いかもしれない。

 両政府で採用されている参照モデルには5つの種類がある。ビジネスアーキテクチャで用いられるBRM(Business Reference Model)とPRM(Performance Reference Model)、データアーキテクチャで用いられるDRM(Data Reference Model)、アプリケーションアーキテクチャで用いられるSRM(Service Component Reference Model)、そしてテクノロジーアーキテクチャで用いられるTRM(Technology Reference Model)である。

 これらのうち、PRMを除く4つの参照モデルは、それぞれのアーキテクチャの最も基本的な素材を提供する。BRMは標準的なビジネスの階層分類を示す。 DRMは標準的なデータの分類と定義を示す。SRMはアプリケーションやその機能に該当するサービスの分類と定義を示す。TRMは標準的な技術やそれが提供できる機能をカテゴリ分けして示す。PRMだけは多少毛色が異なり、情報化投資の効果測定を行うためのKPI(Key Performance Indicator)を分類・整理したものである。参照モデルは互いに関連しており、それぞれの分類を他のモデルでも継承する。例えばPRMのKPIは、 BRMで示された業務区分ごとに設定されている。

●参照モデルの効果

 参照モデルを活用することで、EAの構築に伴う作業負担が軽減される。用意された素材から必要なものを選択することは、ゼロから考えるよりも容易だからである。同時にこれは、ダイアグラムの品質向上にもつながる。作業担当者が分類や整理、抽象化の高いスキルを持たなくても、良く考えられた整理体系に準拠することでスキル不足がある程度カバーされる。

 また、作成されるダイアグラムで用いられる分類や用語が共通化され、同じものが異なる表現で記述されたり、表現の粒度が異なるなどの問題が回避しやすくなる。作業担当者が多人数に及ぶとき、このメリットは特に大きい。作業者ごとに背景知識や考え方が異なることは避けられないが、参照モデルによってある程度のところまで、そうした差異を埋めることが可能になるからである。

●参照モデルの活用

 経済産業省は、EAへの取り組みの中で特に中央省庁が活用するための参照モデルの整備を進めてきた。その一部は既にIPA(情報処理推進機構)のWebサイト上で公開されているほか、その他の成果物についても近日中に経済産業省のWebサイトで公開される予定である。多くの情報を元に作成された日本独自の参照モデルには、本家である米国よりもさらに完成度の高いものとなっているものもある。

 とはいえ、これらの参照モデルは、あくまで政府での利用を目的として作成されたものである。残念ながら、そのままでは民間企業に適用するのが難しい場合もある。例えばBRMは、政府と民間のそれぞれの業務が大きく異なっていることから、利用が制約されるモデルの一つである。EAの民間での普及・活用に際しては、民間版の参照モデルの活用が重要になってくる。現在、広く一般に公開されている参照モデルは稀である。参照モデルの作成には知見やノウハウが必要であるが、利用は極めて容易であることから、民間企業が無償で参照モデルを公開することは、今後もそれほど期待できないだろう。

 一つの解決策は、民間企業による有償サービスである。EA構築支援を行うコンピュータ・ベンダーやコンサルティング企業は、自社内で参照モデルを蓄積して、それを使ったサービスを提供することになるだろう。もう一つの解決策は、政府や標準化機関などの公的機関による民間企業向け参照モデルの開発である。 BRMについては、一部こうした試みが既に行われている。

 ユーザー企業から見れば、参照モデルの存在は直接的にはあまり関係のないことに思われるかもしれない。しかし、継続的にEAを活用していくためには、社内でも簡易版の参照モデルを作成して、維持していくことが必要になる。その際には、既存の参照モデルをうまく活用することで、作業の軽減とノウハウの早期蓄積を図ることが、EAを成功させるための大きな要因の一つとなってくると考えられよう。

(みずほ情報総研 システムコンサルティング部 相原 慎哉)

※本稿は、みずほ情報総研が2005年8月2日に発表したものです。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
関連キーワード
経営

関連ホワイトペーパー

SpecialPR

連載

CIO
研究現場から見たAI
ITは「ひみつ道具」の夢を見る
内製化とユーザー体験の関係
米ZDNet編集長Larryの独り言
今週の明言
「プロジェクトマネジメント」の解き方
田中克己「2020年のIT企業」
松岡功「一言もの申す」
林 雅之「デジタル未来からの手紙」
谷川耕一「エンプラITならこれは知っとけ」
Fintechの正体
内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」
情報通信技術の新しい使い方
三国大洋のスクラップブック
大河原克行のエンプラ徒然
コミュニケーション
情報系システム最適化
モバイル
通信のゆくえを追う
セキュリティ
サイバーセキュリティ未来考
セキュリティの論点
ネットワークセキュリティ
スペシャル
Gartner Symposium
企業決算
ソフトウェア開発パラダイムの進化
座談会@ZDNet
Dr.津田のクラウドトップガン対談
CSIRT座談会--バンダイナムコや大成建設、DeNAに聞く
創造的破壊を--次世代SIer座談会
「SD-WAN」の現在
展望2017
IBM World of Watson
de:code
Sapphire Now
VMworld
Microsoft WPC
HPE Discover
Oracle OpenWorld
Dell EMC World
AWS re:Invent
PTC LiveWorx
古賀政純「Dockerがもたらすビジネス変革」
さとうなおきの「週刊Azureなう」
誰もが開発者になる時代 ~業務システム開発の現場を行く~
中国ビジネス四方山話
より賢く活用するためのOSS最新動向
「Windows 10」法人導入の手引き
Windows Server 2003サポート終了へ秒読み
米株式動向
実践ビッグデータ
日本株展望
ベトナムでビジネス
アジアのIT
10の事情
エンタープライズトレンド
クラウドと仮想化