しかし、これらの目標はほかの市場への進出が前提となっていた。Rollins氏はPC市場が成熟しつつあることを認識していたのだ。そのためDellは、2005年4月に3日間にわたって開催された会議では、ほとんどの時間を費やし、同社が今後はPC専業を捨てること、そしてIT全般を扱う大企業になろうとしていることを、アナリストとメディアに説明した。そこには、PC市場の成長が鈍化してもDellには飛躍的な成長を続ける力がある、というメッセージが込められていた。
2006年に話を戻すと、同社は、回転の速いPC製造体制を完成させていたが、以下のような市場の変化への対応で明らかに不意を突かれた格好となった。
- Y2K騒動から3年続いた法人のPC買い換え騒動が終息し、Microsoftの「Windows Vista」と各社社内アプリケーション環境の組み合わせに関する様子見の状況にあるなか、法人PC市場が鈍化を見せている。
- 消費者は、つまらないPCと粗雑な顧客サービスに対して不満を募らせており、スタイリッシュで品格のある新しいPCを求めて小売店に殺到し始めている。
- Advanced Micro Devices(AMD)がかなりのマーケットシェアをIntelから奪い、法人と個人の両方にとって信頼できるメーカーとしての地位を築き上げた。
- 米国などの成熟した経済大国ではノートPCがかつてのデスクトップの座を奪いつつあり、年末までには小売店の売上の大半をこれが占めるようになる。
Dellは、このような変化に不意を突かれた。CEOとしてのRollins氏の目標の1つは、Dellを単なるPCベンダーから脱却させる手段を見つけ出すことだった。しかし、新製品と新市場参入に重点を置くなか、同社は主力ビジネスをなおざりにしてしまった可能性がある。
2004年には、これに怒ったDellの顧客がネットのあちこちに懸念を書き込んでいた。しかし、同社は、顧客サポート改善に1億ドル投入するとの計画を発表した2006年5月まで、この問題をほとんど放置したままにしていた。その後同社は、プロモーションをもっとわかりやすくし、ページデザインも見直すなど、自社ウェブサイトを顧客が使いやすくする計画を発表した。さらに、顧客との直接対話拡大を期待して、同社はブログも立ち上げた。
DellのLionel Menchaca氏は同ブログの開設から2日目に、「このブログは、顧客の重要な問題に対応する目的で用意された。少しだけ時間をもらえれば、それを証明してみせる」と書き込んでいる。