Oracleの価格改定の意味するところ
各社マルチコアプロセッサに対する課金方法はさまざまだが、CPUという1つの個体に2つ以上のコアが搭載されるようになった今、これまでの「CPUライセンス」というコンセプト自体が崩れつつあるようにも見える。デュアルコアが発表された当初は、1つのデュアルコアCPUにつき2ライセンスが必要だとしていたOracleも、2005年に適用係数による割引を開始し、その後プラットフォーム別の係数の採用、そして今回のコア数に対する考え方の見直しなど、試行錯誤している状況が伺える。
しかし、ガートナー リサーチ BI & インフォーメーション・マネジメント リサーチディレクターの堀内秀明氏は、今回のオラクルの価格改定が業界全体に影響を与えるわけではないと指摘する。「Oracleは、Microsoftと直接競合するStandard Edition(SE)とStandard Edition One(SEOne)でしかライセンス定義を変更していない。これはむしろ、CPUのコア数を見るかソケット数を見るかという問題よりも、Microsoft対策として価格を調整したに過ぎない」というのが堀内氏の見解だ。
今回の価格改定には、Oracleが一番高い収益を得ている大規模システム向けのEnterprise Editionは含まれていない。それは、大規模システムではWindowsよりもUNIXが主流となっているため、Microsoftと同じ土俵で戦う必要がないからだ。大規模システムでは、「デュアルコアだからといってライセンス料を2倍にまではできないにしろ、ミッドレンジからローエンド製品のようにソケット単位での課金が浸透するかどうかは疑問だ」と堀内氏は言う。
ただし、Windowsが普及している中小規模システムをターゲットとした分野では、ソケット単位でのライセンス課金が進みつつあることは堀内氏も認めている。Windowsとの親和性が高いMicrosoft製品がソケット単位での課金方式を採っているため、他ベンダーもMicrosoftに合わせざるを得なくなるというのがその理由だ。OracleもSEやSEOneにおけるライセンス定義の変更によって、実質的な値下げになるが、一方でMicrosoftに流れる可能性のあった中小規模システムユーザーを引き留めることが期待できるため、「実質的に価格が下がってもメリットはある」と堀内氏は説明する。
一方で、Microsoft以外の競合も忘れてはならない。それはオープンソースソフトウェア(OSS)の存在だ。MySQLやPostgreSQLなどのOSSが今後より存在感を示すようになれば、ソフトウェアに課金すること自体疑問視される可能性もある。今すぐOSSが脅威となることはないにしろ、「20年前には基幹システムであまり使われることがなかったOracleが今やデータベースのスタンダードとなっている。また、SQL Serverは10年前には企業内にほとんど浸透していなかった。こうした事実を考えると、10年後の状況が今と同じであるとは考えにくい」と堀内氏。同氏は、「このような変化は徐々に進み、一度起きた変化を元に戻すことは極めて困難なため、これまで成功を体験してきているOracleにとって、今回ようなライセンス体系の調整は重要なことだ」と話す。
課金方式の多様化は進む
さらに、Microsoftは2月19日に、仮想化環境での新たなライセンス体系として、SQL Server 2005 Enterprise Editionのフルライセンスを持つサーバ上にて無制限で仮想インスタンスを利用できるようにした。つまり、これまで1つのサーバ上で2つの仮想化環境を稼動させていた場合、2つのライセンスを購入する必要があったが、新方式では1ライセンスを購入すれば良いことになる。
このようにシステムの利用環境が変化し、今後仮想化トレンドがより加速すれば、「コア単位、ソケット単位という課金方法さえ意味がなくなってくる」と堀内氏。この場合、「物理的なリソースに基づいて課金するのが適切なのかという議論になり、従量課金という方向にまで発展するかもしれない」としている。