では現時点でOSSは自治体にどの程度普及しているのだろうか。オープン化が比較的高いのは住民サービス、地域ネットワーク(いわゆるSNS)など、さほどクリティカルでなく個別性の高いシステムである。この分野は予算も少なく、開発期間も短期であることが多いのでOSSには打ってつけであろう。中には職員もそうと知らないうちに、すでにOSSを利用しているケースもあるという。
現在はさほどクリティカルではないが業務の基盤となるワークグループ、クリティカルで業務の基盤となる文書管理、データ連携やアプリケーション連携などに、OSSは活用され始めている。今後はミッションクリティカルで、これまでレガシーシステムで稼動していた住民台帳、納税記録などのシステムにどのようなアプローチで普及させていくのかが課題であるという。
OSSの阻害要因はステークホルダー
これを受けて壇上に立った三菱総合研究所の林典之氏は、今後OSSセンターが各自治体に対して実施していく「ITシステムに関するアンケート」に触れながら、その現状と方向性について述べた。
林氏はまず、伊藤氏同様、公正な価格やコスト削減といった課題の解決にOSSが有効であることを改めて説明した上で、ではなぜ自治体でOSSがなかなか普及しないのか、その阻害要因を仮説として分析している。最大の阻害要因は情報システム(IS)部門を取り巻く人的環境、あるいは組織環境にあるという。
たとえば業務アプリケーションを発注するとする。このとき多くは中堅クラスのベンダが「かゆいところに手が届く」ようなパッケージを勧めてくるというが、これが情報システム部門にではなく、その業務を実際に行う部門(原課)になのである。情報システム部門に調達依頼が届く時点で、すでに原課の方で2、3種類の製品に絞られてしまっているのが普通だということである。
これではIS部門の業務がほとんどない。また、たとえIS部門がOSSのメリットを熟知していたとしても、原課がそうでないとすれば導入は難しい。
さらに外的要因もある。国や関係機関が納入するファイル形式を指定してくることがあるということだ。このため結局は既存のファイル形式に変換せねばならず、これがネックになっているのである。
今後、OSS普及を図るためにはIS部門だけではなく、原課の方にもメリットを働きかけていくことが必要であろうというのが林氏の考えだ。
一方で、自治体の中でもオープン化が50%に達しようかという部門もある。それは福祉系。たとえば年金支給のとき、レガシーシステム上にある住民台帳と納税記録を確認しながら、実際の支給額はその部門で構築したシステムで算出するというのである。このため多くの自治体でオープン化が進んでいる。住民台帳はクリティカルではあるが、各業務分野にその業務連携とOSSのメリットを伝えることが今後のカギを握っているのだろう。