しかし、ちゃかされてばかりでは芸がありません。その上を行くのがエンターテイナーで、そういう人が現れるとアメリカ人は大喜びです。今回の選挙でのお笑いMVPはJohn McCainでしょう。Obama大統領の出演は、私としてはいまいちでした。仮装パーティーのシーンでObamaのお面をかぶって登場した人が、お面をとると実は彼本人だったという単純なサプライズものでした。照れたそのしぐさは、彼の真面目な面をさらに印象付けました。しかし、John McCainは一味違いました。
John McCainがSNLに登場したのは投票日の3日前。QVCという24時間テレビショッピングを放送する専門チャンネルの司会に扮し、Sarah Palinのそっくりさんと登場したのです。まずはBarack Obamaが選挙PRのために3大ネットワークで番組を買い取ったことをネタに、こうジャブを打ち込みました。
- The final days of any election are the most essential. This past Wednesday, Barack Obama purchased airtime on three major networks. We, hoｗever, can only afford QVC.
（どんな選挙でも終盤が最も重要です。この水曜日、Barack Obamaは3大ネットワークの番組を買い取りましたね。しかし、私たちはテレビショッピングしか買い取る余裕がありませんでした)
McCainは、相手が金で時間を買ったことをネタにしたのです。ただ、ここで相手を攻めるだけでは感じが悪い。高感度アップが目的なので、微妙な親近感が必要です。そこで最初のジャブからすかさず、Sarah Palinのそっくりさんが高級そうなジャケットをなでながら、「These campaigns sure are expensive」（ほんと、選挙ってお金がかかるわよね）と付け加えました。これは、Palinが選挙期間中に高額な服を買い込んだと批判された話にひっかけています。さすがに本人ではありませんが、McCain本人が隣にいるのでかなり高度な自虐ネタでしょう。
その後も、自分の政策に絡めたギャグが続きます。自ら打ち出した選挙資金規制のための政策、ファインゴールド法にひっかけたジュエリーや、ワシントンの無駄なプロジェクトもそぎ落とすナイフ「McCain's Complete Set of Pork Knives」（「Pork」には「助成金」という意味がある）などを商品として紹介し、観客は笑いの渦。あげくの果てには2012年に向けてPalinのそっくりさんが選挙運動を始める始末。最後には、24時間ネットワークのQVCにひっかけて、「This campaign promises you three things: Quality, Value and Convenience」と奇麗に締めくくったMcCainは、SLN予備選挙では圧倒的勝利を収めたのでした。
そのMcCainが選挙戦で敗北宣言をした時、バックに流れていた曲に気づいた人はいますか？ あの曲は、1995年の名画「Crimson Tide」のメインテーマで、白人艦長が自らの非を認めて黒人副長と和解する場面で流れる音楽です。McCainは最後まで演出に凝っていたのですね。
ちなみに、コメディアンにとっては失言が多い政治家ほどネタにしていじりやすい。だから、失言だらけの政治家は大歓迎です。人種の話ではいじりにくいし、知的で失言の少ないObama大統領はコメディアンにとってNightmare（悪夢）だという人もいるようです。前大統領のGeorge W. Bushがいなくなったせいで、コメディー界には冬の時代が到来するかもしれません。
アメリカンコメディーを少しでも楽しんでもらえたでしょうか。次回も引き続きアメリカンコメディーで一緒に笑い転げるポイントを伝授したいと思います。お楽しみに！
Peace out,
Eric
筆者紹介
エリック松永（Eric Matsunaga）
Berklee College of Music、青山学院大学大学院国際政治経済学研究科（修士）卒業。19世紀の米国二大発明家Graham Bellを起源に持つ米国最大の通信会社AT＆Tにて、先進的なネットワークコンサルティングの領域を開拓。その後アクセンチュアにて、通信分野を柱に、エンターテインメントと通信を活用した新事業のコンサルティングをグローバルレベルで展開する。現在、通信業界を対象にした経営コンサルタントとして活躍中。
