「会社をこういう雰囲気にしたい」という強い思い
自分たちの市場を活性化するには、戦略がしっかりしているだけではだめだ。企業として戦略へ一丸となって進む強い体制が必要となる。そのためには、働く人の視線で「こういう雰囲気の会社になって欲しい」という企業としてのフィロソフィー(哲学)を明確にし、社員全員がそれを理解しなければならない。加賀山氏は、「シマンテックでは、買収によって文化の異なる企業同士の合併が続いているため、企業カルチャーが育ちにくい状況にある。そのため、企業としてのフィロソフィーをはっきりさせるには苦労もある」と明かす。
加賀山氏が思い描くのは、オープンで風通しが良く、誰とでもストレートに話ができる環境だ。そして、正しいことがすべてに優先する、そういう雰囲気だ。そのため、部門第一主義を排し、派閥などを生み出す壁を壊す必要がある。これを加賀山氏は「バウンダリレス(境界のない)」という言葉で表現する。
「会社を臓器に例え、心臓をSE、肝臓を営業とすると、心臓が肝臓の代わりをすることはできないし、その逆もしかりだ。それぞれの臓器が有機的につながり、人体という1つの組織ができあがる。個々の臓器は互いに尊重し合い、バウンダリレスに1つの身体になって初めて走ることができるのだ。それぞれの臓器がその臓器特有の役割を果たし、個々に強くなければならないのはもちろんだが、ひとつだけが強くても意味をなさない。それぞれが強くなり、お互い協力し合うことで初めて身体全体で競合に勝てるのだ」
加賀山氏はこの思いを社員全員に伝えるため、20名ほどずつ社員を集め、2時間かけじっくり話す機会を設けてきた。このミーティングでは、製品戦略の話は一切せずに、徹底して加賀山氏の思いの丈を語るという。この機会は、ほぼ全社員に対してすでに実施しており、その結果社員からは「行動の指針を示してもらえた」といった前向きなフィードバックも得られているという。
「まず、人は『気づく』ことが重要だ。気づけば考え方が変わる。考え方が変われば行動が変わる。行動が変われば人格が変わり、そこから人生が変わるかもしれない。そして、人々の人生が変われば社会全体が変化するかもしれないのだ」と加賀山氏。社員の人格を変えないと、会社は変化できない。それが加賀山氏の考えだ。壁を作ってしまうのはその人の癖で、癖を変えるにはその人の人格が変わる必要がある。そのためにもまずは気づき、そして考え方を変える。社員に気づいてもらうため、加賀山氏はこの半年間で多くの時間を費やした。これを「自分の信念としてやっている」と同氏は言う。