米国サンフランシスコで開催中の「RSA Conference 2009」にて、ベンダー同士のコラボレーションの重要性を強調するRSA SecurityプレジデントのArt Coviello氏。同氏はコラボレーションの先に何を見ているのか。Coviello氏がZDNet Japanの単独インタビューに応じ、今あらためてコラボレーションを強く主張する背景と意義、そしてRSAの未来像を語った。
--基調講演ではベンダー間のコラボレーションが重要だと話していたが、これまでにも「Coopetition」(「Cooperate:協力する」と「Competition:競合する」を組み合わせた造語)という言葉があったように、競合同士でもある程度の協力関係があったはずだ。それを今あらためて強調するのは、これまでの協力関係では不十分だったのか。
その通りだ。特にセキュリティの分野では「Coopetition」があまり存在しなかった。特に、この5年ほどでセキュリティ脅威はより高度になってきているため、ベンダー間で協力し合う必要性が高まっているのだ。
また、さまざまなベンダーから多種多様の製品が出ているため、それらをひとつにまとめなくてはならないことも理由のひとつだ。例えば、過去にコールセンターやセールスサポートなどを提供していたベンダーのほとんどは、今ではERPベンダーとなっている。このような統合がセキュリティ業界でも必要なのだ。
--コラボレーションが大切なことは理解できるが、その一方でそれぞれのベンダーは競合しつつ利益を出していかなくてはならない。どの分野で競合し、どこでコラボレーションするのか。
コラボレーションすると利益が上がらないと言う人もいるが、私は逆にコラボレーションしない限り利益は上がらないと考えている。というのは、ある企業にDLP(Data Loss Prevention)技術の話をした時のことなのだが、その顧客は「これまでパッチ管理にアンチウイルス、その他もろもろと、セキュリティ製品にばく大な投資をしてきた。今は現状のシステムを動かすためだけの投資にせいいっぱいで、新しい何かを導入するために投資はできない」と言ったのだ。
つまりわれわれベンダーは、情報インフラを複雑にしたままだとこれ以上顧客に投資してもらえないということだ。顧客が新しい技術を取り入れる気にならなければ製品は売れない。だからコラボレーションすることは、実はベンダーのためになることなのだ。
競合する点についてだが、実は今回DLP分野で協業することになったMicrosoftとCisco Systemsとは、ほとんど競合していない。Microsoftはデスクトップとアプリケーションのエキスパートで、Cisco Systemsはネットワークのエキスパート、そしてRSAは異機種環境でセキュリティを提供する企業だ。この3社が競合する部分はあまりなく、お互いの価値が高まるだけと言っていい。
ただ、RSAにとって少し不利なのは…… いや、これはユーザー側にとっては有利な話なんだが、今回の協業においてRSAは、MicrosoftがAPIを公開してもいいという権利を与えた。つまり、RSAの競合にあたるMcAfeeやSymantecもそのAPIを利用できることになる。しかし、そのリスクを取ってでも今回の協業には大きな意味があった。というのは、われわれは強力なシステムを作り上げる能力において一番のベンダーになりたいのであって、単にMcAfeeやSymantecと製品機能を争いたいわけではないからだ。
コラボレーションの時代では、戦う分野が違ってくる。これまでのように個別の機能や製品で戦うのではない。いかにして強力なシステムを作り上げるかどうかが大切になるのだ。