デジタルネイティブと“お金”の感覚を共有できるのか

飯田哲夫(電通国際情報サービス)

2009-06-29 18:15

 CapgeminiとMerrill Lynchによる「2009 World Wealth Report」が出た。これは両社が毎年世界の金持ちの状況を調べてレポートしているもの。当然ながら、今年は金持ちが減っている。資産1億円以上の個人は全世界で14.9%減少し、資産30億円以上の個人は24.6%減少したのだそうである。

 そんなに資産がない身からすると「だからどうした?」という感じであるが、ないならないなりに減ってしまうと心配なものである。わずかな金融資産は市場の混乱でマイナス運用に転落し、公的年金もアテにならない。金融広報中央委員会の調査でも、老後の生活が不安であるとする人が20代でも81.6%で、何とこれは60代の81.1%を上回ってしまうのである。

 こんな状況は米国でも顕著であるらしく、米最大のネット専業銀行であるING Directは、「Planet Orange」と呼ばれる子供をターゲットとしたオンライン教育ツールをリリースした。Finextraの解説によると、宇宙旅行を模した、この子供向けの教育ツールは、冒険を通じてお金を稼いだり貯めたりすることの重要さを教えることに始まり、最後には分散投資やリスクの考え方にまで話は及ぶらしい。

 ただ、この世代になると、お金の大切さとは言っても、もはやそれを実物の紙幣や貨幣で感じる以上に、バーチャルなマネーとして感じるのだろう。自分のように、ネットを後天的に使うようになった世代だと、金融資産がいくらデータとしてしか存在していなくとも、それを実物の紙幣や貨幣に無意識に置換してそれを実感するところがある。

 先日、Don Tapscott氏の『Grown Up Digital』の邦訳(『デジタルネイティブが世界を変える』)が出版された。もしリアル貨幣が電子マネーに置き換えられて実物としての紙幣や貨幣の流通がなくなったとしても、その状況には適応できるだろうが、そうした状況をスタート地点とする世代、つまり“デジタルネイティブ”な世代とはお金に関する感覚はもはや共有できないだろう。

 こういう私は、景気が悪くなると実物を確保することを追求してしまう。それは別に金を買いに行くということではなくて、貨幣のその先にある実物としての食糧である魚を釣りに行くのだ。しかし、最近の釣果を鑑みるに、飢える自分が想像に難くないのが辛いところ。貯金する方がいいのかな。

筆者紹介

飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。
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