日本IBMは、2010年1月1日付けで、クラウドビジネスを横断的に取りまとめる専門組織「クラウド・コンピューティング事業」部門を社長直轄として新設。クラウドコンピューティング事業体制を強化する方針を示した。
クラウドコンピューティング事業担当として、同組織を統括するのは執行役員の吉崎敏文氏だ。同氏は「IBMは、プライベート、パブリック、ハイブリッドの3つの企業向けクラウドを、仮想化、標準化、自動化の3つの技術要素によって実現する。今年は、上流から下流まで、クラウドに関する製品、ソリューション、サービスを断続的に投入することを宣言する」とし、それにあわせたビジネス推進体制を確立していくことになる。
新たな製品としては、シンクライアントなどを対象にした「パブリックデスクトップクラウド」、開発テスト環境に向けた「パプリックテストクラウド」のほか、「Smart Analytics Cloud」「プライベートストレージクラウド」などの領域での製品投入が予定されている。
同社では、今後5年間でクラウドコンピューティング事業に関して、100億円を投資する予定だ。
クラウド・コンピューティング事業の専門組織は、世界に先駆けて日本法人に設置したもので、「日本の市場がいかに重要であるかを示したものであり、クラウドへの取り組みが早い日本の顧客の声を拾い、グローバルレベルでサポートするものになる」としたほか、「社内の技術理事のなかから、1カ月をかけてクラウド最高技術責任者(CTO)を任命し、技術で先行するだけでなく、それをいち早く、広く活用する体制を整える」とした。
さらに、1月末までにクラウドに関する教育を受けた300人のクラウドスペシャリストによる「Team Cloud」を結成。マーケティング、ソリューション、セールスの機能を持たせる一方、3月末までに日本IBM社員のうち1000人を対象にクラウドに関する教育を実施し、横断的にクラウドコンピューティング事業を推進する体制とする。
また、これまで製品事業部門ごとに別々になっていたクラウド関連製品、ソリューション、サービスを、業界別に最適化したソリューションとして再編し、具体的なソリューション提案活動を加速するほか、クラウドに関して、ビジネスパートナーとの協業強化も進める。ビジネスパートナーとの協業強化策については「近日中に公開する」という。
加えて、幕張事業所内にIBMのクラウドソリューションのデモと検証環境を統合した「幕張クラウド・ショーケース」を開設する。
「2月から3月にかけて、SIのためのソリューションアセット、最新ソフトウェアの技術ハンズオン、最新ハードウェアの技術トレーニング、BAOのデモと検証、クラウドコンピューティング技術デモと検証などを提供できるようにする。社内に分散していた環境を、幕張に統合することにより、運用管理コストを削減できるようになる。今後、ビジネスパートナーの利用もできるようにしていきたい」(吉崎氏)
吉崎氏はクラウド事業におけるIBMの強みとして、「技術リーダーシップ」「ソリューションポートフォリオ」「豊富なクラウド導入実績」「グローバルの英知とスケールメリット」の4つの観点を強調した。
「IBMには、40年間に渡る仮想化の実績があり、汎用機からIAサーバまで、マルチベンダー、マルチプラットフォームの幅広い製品を対象にした事業展開が可能だ。さらに、IBM CloudBurstを活用することにより、わずか数日でクラウド環境を構築できるなど、技術的なリーダーシップもある。また、社内で利用している50以上の業務を分析し、クラウドに向く業務を特定し、体系化したクラウドソリューション、ラインアップを強化するためのロードマップを提示できる。これにより、業務に応じた最適なソリューションを提供できる」(吉崎氏)
吉崎氏は、クラウドが適したスイートスポットとして、コラボレーションや数値計算、少量のデータ移動などをあげる一方、トランザクション処理、ERP、CRM、SCMなどの領域では適していないと定義する。「だが、顧客の業務の変化に対する考え方次第では、この位置付けも変わってくるだろう」とした。
同社によるクラウド導入実績としては、IBM社内において、11万人の研究者と開発者が2年以上に渡って使用しているほか、200以上のプロジェクトの経験があるという。そのうち55件の事例を公開しており、全世界10カ所のクラウド検証センター(そのうち日本は1カ所)、全世界9カ所のクラウドデータセンター(そのうち日本は2カ所)を通じたサービスを提供できる点も、グローバル展開を行う顧客にとってはメリットとなる。
IBMの調査では、競争力強化のためにクラウドコンピューティングやSaaSでの取り組みを検討しているとしたCIOは、グローバルで33%に留まっているのに対して、日本のCIOでは50%に達しているという。また、日本の6割近い企業がクラウドコンピューティングに前向きな姿勢を示しているとする。
日本IBMでは、日本を「クラウドコンピューティング先進国」ととらえて、クラウドビジネスの拡大を図る考えだ。