「キツイ」「クライ」「カエレナイ」といった3Kのイメージがつきまとうと言われるIT業界。場合によっては5K、7Kとも言われる。しかし、実際に働いている人間はそうは思っていないようだ。情報処理推進機構(IPA)が5月20日に公開した「IT人材白書2010」で、システムの現場で働く技術者たちの予想外とも言える姿が浮かび上がってくる。
将来に対する不安感が強い
IT人材白書は、プログラマーやSEなどのシステム関連業務に従事するIT人材の動向に関する調査をまとめたものだ。2回目となる今回のIT人材白書2010では、人材動向に関する調査結果をまとめるとともに、いくつかのトピックスのテーマで分析して、日本のIT業界を支えるIPAとしてのメッセージを発信することも狙っている。今回のテーマは(1)情報システムのパラダイムシフトと求められる人材、(2)IT人材個人のキャリア意識、(3)IT利活用に求められる社会人の基礎知識――の3点だ。
IT人材白書ではさまざまな対象を調査しているが、今回のIT人材個人を対象にした調査は、1000人の現役を対象にウェブ上でのアンケートを行っている。
この調査では、仕事や職場の環境に対する満足度を聞いている(図1)。問いに対して職場の雰囲気については60%以上が満足と答えている。また、休暇の取りやすさ、プライベートとの両立という点でも意外にも仕事や職場の環境に対して好意的な回答が多いという結果になっている。この結果に対してIPA理事の田中久也氏(IT人材育成本部長)は「職場の雰囲気に対する満足度が高く、休暇の取りやすさやプライベートとの両立に対しても満足している様子であり、世間で話題に上がるような3Kのイメージとは異なる結果になっている」と分析している。
ただ田中氏はこの結果は「一時的なものかもしれない」と説明する。「現在の景気低迷の影響を受けて業務量そのものが減少していることで職場環境に大きく影響を与えていることは否定できない」。そうしたことを踏まえて「IT業界自らが変化していくことで、3Kのイメージを払拭することが重要」(田中氏)としている。
満足度調査で一番低かったのが「社内での今後のキャリアに対する見通し」になっている。またアンケート調査では、個人として今の仕事への感想も聞いている(図2)。その結果からは「ITの業務に対して前向きという姿勢が見られるが、『将来のキャリアが不安』との回答が多い」(田中氏)という結果になっている。「給与面以外の悩みや問題点」の質問からは、労働時間や忙しさなどよりも将来に対する不安感が強いことも読み取れる結果になっている。
将来に対する不安感という点をさらに掘り下げていくと、「自分の現在のスキルが将来にも通用するかどうか分からない」「自分の会社が、将来も今と同じ状況にあるかどうか分からない」という不安を感じている姿が浮かんでくる(図3)。また、現在働いている会社についても、「会社のビジョンが明確」や「今後も成長、発展すると思う」については多くの技術者が不安を感じていることが見えてくる。
こうした調査結果から田中氏は「現場で働く個人の不安原因は将来の不透明さ」にあると分析している。もともとシステムの現場は仕事としての専門性が高く、技術やスキルが身につけられるという面がある一方で、常にスキルアップを求められる仕事でもある。そのことから「自身のスキルアップの必要性を高く感じていることが分かる。さらに、個人として技術の進展や企業を取り巻く環境の変化が加速していくなかで現状への不満よりも、将来への不安を強く感じる傾向にある」(田中氏)。