日本IBMは、Rational事業への取り組みについて発表した。
日本IBMのソフトウェア事業ラショナル事業部長の渡辺公成氏は、「開発、設計ツールとしてスタートしたRationalは、2003年にIBMが買収して以降、さらに買収と統合を重ねて製品ポートフォリオを広げてきた。3年前にTelelogicを買収して組み込みソフトウェア開発領域向けソリューションへと拡張し、昨年はOUNCE LABSを統合してアプリケーションの脆弱性対策を行う環境へと広げた」と歴史を振り返って見せる。
「アプリケーションがサポートするメインフレームやUNIXサーバ、Windowsサーバといった異なるインフラがもたらす障壁、エンドユーザーやIT部門といった組織的な障壁、オフショア開発による地理的障壁といった課題を解決するツールとしてRationalは進化してきた。設計、開発、テストから、プロジェクト管理、ビジネス計画、セキュリティ、コンプライアンス管理まで幅広い業務内容に対応するツールがRational。幅広いプラットフォームにも対応し、幅広い開発対象にも適用が可能。10月7日と8日に開催したInnovate 2010では、開発者だけを対象にするのではなく、初めて経営者層、管理者層にまで対象を広げ、1266人が参加した。初日は半分以上がマネジメント系の参加者だった」(渡辺氏)
また、「2008年に投入したJazzは、開発に必要な機能とデータを統合して管理できるようになるとともに、アジャイル型の開発環境に適した統合型のチームコラボレーションプラットフォームといえるもの。現在、このプラットフォーム上にRational製品を作り直している段階にある」などとした。
これまでにも、チーム開発プラットフォームの「Rational Team Concert」、プロジェクト横断的なパフォーマンス計測を可視化する「Rational Insight」、要求定義を行う「Rational Requirements Composer」、大規模なソフトウェアの変更管理を行う「Rational ClearQuest」といった製品をJazzプラットフォーム上で展開。「来年には、旧Telelogic製品をJazz化したテレロジックポートフォリオ、プロシェクト管理およびリソース管理を行うRational Project Conductorを投入する」とした。
Jazzの浸透に向けては、10開発ユーザーまでが使用できるExpress-Cエディションを無料で提供することで、中堅中小企業での利用促進を図る姿勢をみせた。また、これまでのIT系パートナーだけでなく、新たに2社の組み込み領域を担うパートナーとの連携を開始。自動車業界向けのセミナーの開催といった業界別提案も加速する考えだ。
さらに、既存ツールを生かしながらJazzのメリットを提供するツール間連携の「OSLC(Open Services for Lifecycle Collaboration)」を提唱。「指標化のためにIBMが提供する標準仕様がOSLCとなる。この規格をベースに、富士通やNECとの協業も積極的に進めたい。来年にはワーキンググループを作って、日本のなかで広げていくことになる」などとした。
IBMでは「ソフトウェア・エコノメトリクス」といった新たな概念を提示。「生産性や品質を計測することでプロジェクトの安定的な進捗と、本番稼働時の不具合を大幅に削減でき、生産性が高まるという結果が出ている。ソフトウェア・エコノメトリクスでは、品質、コスト、リスク計測といった従来の常識を超えて、評価メトリクスが進化。ビジネス価値を計測することにより、企業と社会に対する影響を予測することができ、あるべき方向に導くことができるようになる」などと語った。
一方、クラウド対応に関しては、昨年からIBMグローバルテクノロジーサービスとともに展開しているプライベートクラウド環境における製品提供のほか、すでに米国で開始しているパブリッククラウド向けサービスを、来年には日本で展開する計画を明らかにした。また、「データセンターを保有したり、クラウドサービスを提供している事業者に対する新たな価値を提供する仕掛けもしていく。すでにデータセンター事業を行っている日本の企業と話し合いをはじめている段階」などとした。
また、日本IBMでは、Rational製品の新たなライセンス体系として「トークン・ライセンス」を11月2日から提供すると発表した。
「必要な時に、必要な人数分、必要なソフト開発ツールを柔軟に使用できるものになる」と位置づけており、まずはRational製品のうち約20製品を対象にスタート。将来的には全製品を対象とする。
利用者は、必要とする製品ごとに設定された「トークン値」と利用人数に応じて、トークンを事前に購入。製品が利用されると、トークンを保管する「トークンプール」から使用した分のトークンが消費される。また、利用者が作業を終えると、消費されたトークンは自動的に「トークンプール」に返却される。
トークンプールに返却されたトークンは、他のユーザーが再利用できるとともに、別の対象製品にも利用できる。トークンの有効期限は1年間で、期間中は、好きな組み合わせで利用できるという。
これまでは、要求分析、設計、開発、テストといったそれぞれの開発ライフサイクルにおいて使用されるツールが異なり、それぞれのピークにあわせてライセンスを購入する必要があった。また、プロジェクト進行に合わせて使用する製品が変わり、あるフェーズを過ぎると使用しない製品もあり、それぞれを永久ライセンス方式で購入するには大きなコスト負担があった。トークン・ライセンスではその時に必要とされるツールの分だけ、トークンを購入すれば良いため、大幅なコスト削減が可能になるという。
価格は1トークンあたり10万3400円(税抜)。1年間の継続料金や追加購入料金も同価格となる。
「これによって、これまではツールを利用していなかったフェーズでの利用が増加したり、Rationalを利用するユーザーの拡大につながるものと期待している」とした。