ソーシャルメディアの影響力と企業戦略への生かし方--SAS幹部が語る - (page 2)

藤本京子(編集部)

2010-11-24 13:54

 確かにそうだ。ただし、匿名でも意見を集めること自体に意味がある場合もある。例えばTwitterは、匿名でつぶやくユーザーも存在するが、トレンドを把握するために役に立つ。それに、Twitterで自社製品のことを悪く言うユーザーがいたとすれば、誰の発言であってもまずは製品を調べ、そのユーザーの意見が正しければ製品を改善する努力をすればいい。反対に、その意見に異議があれば、その意見を変えてもらえるようなPR戦略や製品戦略を考えればいい。ソーシャルメディアの世界では、個人に影響を与えるよりも集団に影響を与える方が重要なため、単にそのユーザーが誰かを探るのではなく、市場に正しく自社製品を認識してもらうよう伝える努力をすることが大切だ。つまりソーシャルメディアは、自社製品を購入してもらうために活用するというよりは、ユーザーがどのような意見を持っているかを知り、製品の方向性を決めるためのものなのだ。

 一方、Facebookは匿名性の低いソーシャルメディアと言えるだろう。Facebookに登録しているユーザーは、多くが実名を使い、自分の趣味や嗜好、誕生日、未婚か既婚かなど、一般のブロガーよりも詳細な情報を公開している。こうした統計から、どのようなタイプの人がどんな意見を持っているかが把握できる。

--ソーシャルメディアは今後もビジネスに大きな影響を与え続けるのか。

 影響度はさらに大きくなっていくだろう。すでにソーシャルメディアは、単に自分が何をしているのかつぶやく以上の場所になっている。

 衣料小売店のGAPで起こったことは、ソーシャルメディアの影響を表す良い例だ。GAPは10月に自社のロゴを変更しようとしたが、Facebookのユーザーらが声を上げて反対した。あまりにも反対意見が多かったため、GAPはその多数の意見を尊重し、ロゴの変更をやめたのだ。

 もしこれがソーシャルメディアのない時代だったらどうだろう。顧客の声は届かないまま、GAPは代理店を雇ってロゴ変更の手続きを進めただろう。店のロゴからカタログまですべてを変更して1年後、市場調査を行い、ユーザーが新ロゴに対していい印象を持っていないことに気づく。その間、顧客からの支持率や売上にどれほど影響があったのか知る由もないのだ。今回はソーシャルメディアが存在したおかげで、顧客の反応がリアルタイムに把握できた。しかも、そのために何のコストもかかっていないのだ。

 今後課題となるのは、企業がソーシャルメディアをうまく活用できるかどうかだろう。ソーシャルメディアのコミュニティは非常に影響力が大きいが、企業がソーシャルメディアを間違って使うケースも出てくる可能性がある。例えばFacebookやTwitterで単に何かを売りつけようとすれば、すぐにコミュニティは反発する。ソーシャルメディアでのマーケテイングが行き過ぎて、ユーザーが我慢できなくなることもあるかもしれない。コミュニティの反感を買うようなことをすれば、必ずコミュニティは反撃する。このような世界でマーケティングの手法を誤れば、収益にも大きな影響が出る。そうなってはじめてソーシャルメディアの力を思い知る企業も出てくるはずだ。

 従来のマーケティングは、企業のメッセージを多くの人に伝えるだけの一方通行のコミュニケーションだった。しかしそのような時代は終わったのだ。いまやマーケティングは、顧客の声に耳を傾け、顧客を尊重するという双方向の会話で成り立っているのだ。Harvard Business Reviewの中にも、「誰かが何かの悪口を言うと、昔は10人がその悪口を聞いていた。しかしソーシャルメディアの世界では、その悪口が1000万人のユーザーに一瞬にして伝わる」という言葉が引用されている。この世界は本当に影響力が大きいのだ。

Davis氏 ホワイトボードを使って丁寧に説明するDavis氏

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