SaaS活用における期待と現実のギャップ
では、中堅中小のユーザー企業はこれら2つのシステムのクラウド活用に何を期待しているのだろうか。
次のグラフは年商500億円未満の中堅中小企業に対し「SaaSのメリットと考えられる事柄」を尋ねた結果である。
「ハードウェアやソフトウェアの購入や管理/運用が不要」といったコスト削減に関連するメリットが多いことがわかる。つまり、中堅中小のユーザー企業はSaaSを「身近にあるシステムに適用することでコスト削減を実現できるもの」と捉えているのだ。
ところが実際はそう簡単にはいかない。実はユーザー企業もそのことを十分理解している。以下のグラフは年商500億円未満の中堅中小企業に対して「SaaSのデメリットと考えられる事柄」を尋ねた結果である。
「自社が求める情報処理システムを実現しようとすると、逆に費用が高くなってしまう(個別カスタマイズが困難)」「社内に置かれた他の情報処理システムとの連携が難しい」といったように、SaaSが抱える技術課題を比較的正しく把握している状況がうかがえる。ここで、SaaSに期待するメリットと現実のデメリットの間に大きなギャップが生じることになる。
基幹系業務システムは中堅中小企業においてもカスタマイズやシステム連携が加わることが少なくない。その状態のシステムをSaaS上に再現するには一部の機能を諦めたり、費用のかかる個別対応が必要となってくる。その結果、期待されたコスト削減効果を得ることが難しくなってしまう。会計など、単体での基幹系業務システムのSaaS活用が難しい理由もこうした要因によるところが大きい。
一方、情報共有システムは、基幹系業務システムと比べるとカスタマイズやシステム連携に起因する障壁は少ない。しかし、SaaSへ移行しやすい(システムがシンプル)ということは、自社内運用でも負担はそれほど大きくないことを意味する。そのため、コスト削減効果が高くならず「慣れに起因する変化への抵抗(使い慣れた操作画面を手放したがらない)」が足かせとなることも少なくない。
もちろん、基幹系業務システムや情報共有システムのSaaS活用が有効なケースも存在する。