クラウドを議論する前に解決すべきこと(前編)

宮本認(ガートナー ジャパン)

2011-02-24 14:00

 筆者は、時折過剰に流行を作ってしまうメディアに疑問をもつ時がある。興味を引くために、新しいものありきで、いろいろな記事が作られているような気がして、実際に知りたいこと、知るべきことが載っていることが少ないと感じる時があるからだ。

 最近だと、やはりクラウドだろうか。「クラウドを入れるべきだ!」「うちのクラウドはすごい!」――。実際に日々問題解決に当たっている現状からは、物凄くズレている記事や宣伝を見かける。

 筆者はコンサルティングをやっているので、多くのお客様(筆者の場合、情報システム部長や情報企画課長が多い)から、「クラウドを入れるべきだろうか?」というカジュアルな質問から「うちのクラウド戦略、一緒に考えてくれないか?」といったシリアスな依頼まで、何でも相談を受ける。例えば、こんな具合に――。

ある情報システム部長との会話

「部長、ご無沙汰してます。元気ですか? ま、部長は元気ですよね」

「うぅん…まぁ、調子は悪くないかなぁ。でもねぇ…最近進出したアジアへのERP(統合基幹業務システム)の展開でトラブルがあってね。最近それに追われてた」

「アジアですかぁ…最近、どこもアジアに出てますよね。第2次グローバル化はすごいですね」

「うん。まぁ、国内はもう伸びないからねぇ」

「で、どうしたんですか? 久しぶりにメール頂くなんて」

「あのね、クラウドってどうなの?」

「それですか!……でも『どう』って聞かれても困りますよね。ま、何でもいいんだったら、今から20分間、適当にしゃべりますけど…」

「いや、CIOの常務から、『ウチのクラウドってどうするんだ?』ってこの前聞かれてね。何か答えなきゃいけなくて、ベンダーとかにも提案持ってきてもらったんだけど、どうもしっくり来なくてね。君なら、なんか気の利いたこと、知ってるかと思ってね」

「そういうことですか……。今、この手の話、いたるところで聞かれるんですよ。メディアの力も大したもんですね。常務クラスの人がクラウドなんて言葉、話すなんて」

「ま、コマーシャルまでやるし、政府も大々的にぶちあげたからね。ERPとかアウトソーシングの時より、経営の関心、正確には認知度かな、それは高いんじゃないの?」

「そうかもしれませんね。最近の経済の明るい話って、スマートフォンとか通販とか、結局IT絡みですからね。少しは、ITに関心持ってもらうようになるってのは、いいことですけど。それじゃ、まず、クラウドって何か? ってところから、話します?」

「うん。そうね」

クラウドの向き不向き

「まず、ちゃんとしたところから。クラウドコンピューティングっていろいろなことをいろいろな人が言っているんですけど、ガートナーでは『スケーラブルかつ弾力性のあるITによる能力を、インターネット技術を利用し、サービスとして企業外もしくは企業内の顧客に提供するコンピューティングモデル』と定義しています。要は、インターネット技術を使ってITサービスをユーティリティ型で提供するものですね」

「ふむふむ」

「あと、ガートナーは、『クラウドコンピューティングは重要な概念でありテクノロジ』と言っています。僕がどう理解しているかって言うと、IT業界での“産業革命”が起きているって思っているんです。産業革命って、動力のあり方も仕事のあり方も人口分布まで変わっちゃったでしょ? 会社は株式会社形態になったし、国家だって富を追及するようになっちゃいました。ITでも同じことが起きる可能性があるんです。ITのリソースだって変わるでしょ? その結果、ITを提供する側がやることも変わるでしょ? もしかすると、ユーザーへの便益も変わるかもしれない。ま、まだ可能性であって、そこから先はどうなるか、これから次第なんですけどね」

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