企業のガバナンス強化とCIOの役割(後編)
東日本を襲った大震災のように予期せぬ事態や目紛しく変化する市場環境への対応に向け、企業はこれからどのようにガバナンスを強化していけばよいのか。その中で最高情報責任者(CIO)はどのような役割を果たしていくべきなのか。この分野のアナリストとして第一人者であるTina Nunno氏(Gartner CIOリサーチ バイスプレジデント兼最上級アナリスト)に聞いた(前編はこちら)。
求められる取締役会でのCIOの発言
――企業がガバナンスを強化する中で、CIOにまず求められることは何ですか。

経営の意思決定を行う取締役会で、CIOが発言できるようにすることがまず求められます。これはCIO自身が、というより取締役会のメンバーである最高経営責任者(CEO)をはじめとした経営層の判断が必要です。私たちのリサーチによると、取締役会の方もCIOをメンバーに加えるべきだとする声が非常に強いようです。
ところが、これも私たちのリサーチによると、実際に取締役会に常時出席しているCIOは、全体の8%にすぎないのが実情です。この数字は、CIOが意外に取締役会のメンバーではないことを浮き彫りにしていますが、経営にとってITは不可欠と言われて久しい中、この状況はガバナンスの観点からも早急に改善すべき課題だと思います。
――なぜ、そんな状況になってしまっているのでしょうか。
取締役であるかどうかは別として、CIOならば経営の意思決定を行う会議には必ず参加すべきです。取締役会の方もCIOの発言を期待しているのに、なぜ実際にCIOが取締役会で発言する機会が少ないのか。それはCIO側にも原因があるようです。
というのは、取締役会に出席しているメンバーにとって興味深い話ができるCIOがまだまだ少ないんですね。
実は今、私の仕事の多くは、CIOが取締役会で行うプレゼンテーションを事前レビューすることなので、取締役会がCIOに求めていることと、CIOが話そうとしている内容にギャップがあるのをひしひしと感じています。
戦略的なIT投資でガバナンス強化へ
――そのギャップとは何ですか。
CIOは取締役会で発言する機会を得られると、例えば「こんなITの仕組みを構築することによって、こんなことができるようになります」といったITの導入とその効果に関する話ばかりに終始しがちなんですね。
ところが、取締役会が常々興味を持っているのは3つの点だけ。すなわち、売り上げ、利益、リスク管理です。したがって、CIOはITの話をするにしても、この3点につなげる形で取締役会にとって興味深い話にしていく必要があります。
――具体的にどのような話をすればよいのでしょう?
今お話しした3つの点にしか興味を持たない取締役会のニーズをしっかり踏まえているCIOは、IT投資に関するポートフォリオを、その3つの観点から説明していきます。そして、それが企業にとっていかに競争力を高めることになるのかを訴えます。そうすると、取締役会のメンバーは身を乗り出して話を聞くようになってきます。
――競争力を高めるというのは、先ほどガバナンスの目的としてお話しされたことですね。
その通りです。そこまで来ると、まさしくガバナンスそのものの話なんですね。私はむしろ、CIOこそ戦略的なIT投資の話を通じて、取締役会に対して競争力を高めるためのガバナンスを促すことができると思っています。