災害に立ち向かうコラボレーションの力--sinsai.info - (page 3)

富永恭子 (ロビンソン)

2011-06-17 21:29

豊富な救援実績を持つオープンソースの「Ushahidi」

 sinsai.infoのプラットフォームとなったUshahidiは、2008年、ケニアで選挙の不正を監視するサイトのために開発されたオープンソースソフトウェア。その名はスワヒリ語で「証言」を意味する。

 Ushahidiは、すでにハイチとニュージーランドの地震でもOSMで多方面に活用された実績があり、地図を背景に、位置情報つきのレポートの集約プラットフォームとして、被災地の情報をどんどんプロットしていくことができた。

 sinsai.infoは、掲載する情報として、地図データだけでなく震災に関連する情報や救援依頼など、被災地のレポートを公開した。これらの情報は、PC、携帯電話、スマートフォンを使ったウェブサイトからの投稿、メールでの投稿、「#tohokueq」「#miyagi」のハッシュタグをつけてTwitterから投稿されてくる。

 投稿されたレポートは、ボランティアの「モデレーター」がレポートの内容を目視で確認し、デマや煽動ではないと判断すると、公開検証作業を行った上で登録される。レポートには、タイトル、カテゴリ、情報ソースのURL等が含まれており、これと最新の地図情報を組み合わせることで、位置情報と紐付けられたレポートが、プラットフォーム上にリアルタイムで公開される仕組みとなっている。また、Twitterやメールで投稿された情報も、モデレーターがすべて目を通し、分類、場所確認、重複整理などを行って公開した。

 sinsai.infoでは、API経由で直接レポートを投稿したり、読み込んだりすることも可能。また、CSV形式でダウンロードできるため、閲覧とともに自由に使うことも可能だ。特に便利なのが「アラート機能」で、特定のエリアに情報がアップされたことをメールで知らせるてくれる。これにより被災者は、被災エリアの情報を位置情報とともにリアルタイムで取得することができたという。

sinsai.infoのアラート画面 sinsai.infoのアラート画面

のべ250人のボランティアが参加、登録レポートは1万件超

 sinsai.infoは、公開から現在にいたるまで、ボランティアの開発者、ボランティアのデータ管理者、OSMJおよびOSMFJの有志たちにより、自発的に運営されてきた。これまで、OSMFJの約20人のメンバーのほかに、エンジニアや非エンジニアを含め、外部からのべ250人以上のボランティアが協力している。

 地震発生から18日後の3月29日時点で、レポート数は登録済みレポートが7800件以上、未登録をを含めると1万件以上となり、Twitterの情報はそれを超えた。また、同時点でのページビュー(PV)数は、一日平均約3万PV、トータルで74万1894PVだった。とくに仙台からの利用が多かったという。

 shinsai.infoは、3月22日には内閣官房 震災ボランティア連携室と連携し、運営支援プロジェクトとして同連携室が運営する「助け合いジャパン」の震災情報マップ部分に採用された。さらに5月25日現在では、登録されたレポートは1万件を超え、169カ国からのべ80万アクセスを達成している。

4つのオープンスピリット

 三浦氏は、「sinsai.infoがこれほど素早く立ち上がり、また、国内外の多くのボランティアとの共同開発が可能だったのは、ハイチやチリ、ニュージーランドの地震で大きな成果を上げたUshahidiの活動から支援を受けたことが大きかった」と語る。そして、それがオープン(自由)であることが、もっとも重要だったという。

 「オープンソースソフトウェアとして自由に活用し、オープンデータとしてマッシュアップを推奨するとともに、Twitterやブログ、開発者やモデレーターなど、ボランティアの協働によるオープンコラボレーションを実現した。そして、オープン・トゥ・グローバルによって、sinsai.infoは国内外を問わない支援を受けた。今後は、改良したソースや開発したプラグインをアップストリームへ戻し、学びを世界に返還していく。この“4つのオープンスピリット”によって、sinsai.infoは成果を上げた。そして、これこそがオープンソースのスタイルであり、文化なのだ」と語った。

4つのオープンスピリット※クリックで拡大画像を表示 4つのオープンスピリット※クリックで拡大画像を表示

 sinsai.infoは今後、「みんなで作る震災復興プラットホーム」として、アプケーション基盤になることを目指し、さらにAPIを拡張していくという。4月25日には「Open Social Gadget Project」を立ち上げた。UshahidiにはWeb 2.0 APIがあり、携帯電話向けに連携したウェブアプリケーションを作ることができる。これを使って、ブログやiGoogle、mixiなどのOpenSocial対応SNSに埋め込めるガジェットのプロトタイプも公開中だ

 さらに、sinsai.infoとオープンソースライセンスの災害復旧支援システム「SAHANA」とのコラボレーションも進められている。SAHANAは、スマトラ島沖地震の復旧支援に活用されたシステムで、避難所の状況や仮設住宅の情報、病院の受け入れ状況、支援物資の登録やマッチングなど、被災地で刻々と変化していく情報の登録と管理を行うことができる。

SAHANAを活用し、sinsai.infoは次の段階へ進む※クリックで拡大画像を表示 SAHANAを活用し、sinsai.infoは次の段階へ進む※クリックで拡大画像を表示

 三浦氏は「今後、sinsai.infoはSAHANAを活用し、現地のボランティアや中間支援団体、自治体の福祉向け業務システムとして、またNPOの情報共有システムとして、震災の復旧支援に役立てていきたいと考えている」と語った。

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