米Salesforce.comと並んでIaaS/PaaSの先駆者と言えるAmazon Web Services(AWS)。同社が提供するIaaS「Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)」やストレージサービス「Amazon Simple Storage Service(S3)」は個人はもとより企業でも活用されている。
AWSはどのようにしてサービスを生み出しているのか、どんなことを狙っているのか――。AWSの経営に携わり、親会社のAmazon.comで最高技術責任者(CTO)を務めるWerner Vogels氏に話を聞いた。
Oracle DB対応は顧客への要望から
――Amazon.comのCTOという職務について聞かせてください。
わたしはCTOとしてAmazon.comに入社しました。着任以来、可用性や拡張性、サービスの性能、効率といった課題への取り組みの水準を向上させるために、さまざまなテクノロジを開発しています。
Amazon.comは設立当初からテクノロジカンパニーで、それは現在も変わりません。しかし、AWSをはじめ社内でだけ使っていたテクノロジを社外にも提供するようになったことから、CTOの役割も変わりました。社内の仕事に加え、テクノロジを外に向けて提供していく役割も果たす、いわば「対外的テクノロジスト」ともなったのです。顧客との接点でもあり、非常に重要な役割だと思っています。
具体的には、顧客がどのような課題を抱えているのか、またAmazon.comのテクノロジを使う上でどういう課題があるのかを知り、それらを解決していくためにテクノロジそのものを継続的に改善していく責任をCTOは担っています。どの企業でも同じだとは思いますが、「世界一の顧客志向の会社」になりたいと思っているAmazon.comにとっては、なおさら重要なことです。
年 | 月 | 内容 |
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2006 | 3 | Amazon Simple Storage Service(S3)を提供 |
7 | Amazon Simple Queue Service(SQS)を提供 | |
8 | Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)を提供 | |
2007 | 10 | Amazon EC2でラージとエクストララージを提供 |
11 | Amazon S3を欧州で提供 | |
Amazon EC2上でRed Hat Enterprise Linux(RHEL)を提供 | ||
12 | Amazon SimpleDBを提供 | |
2008 | 3 | Amazon EC2用にElastic IPアドレスを構築 |
4 | AWS Premium Supportを提供、Service Health Dashboardを提供 | |
5 | Amazon EC2上でOpenSolarisとMySQL Enterpriseを提供 | |
6 | Amazon EC2上でJBossが発表 | |
7 | Amazon SimpleDBでQuery Sortがリリース | |
8 | Amazon Elastic Block Storeを提供 | |
Amazon SimpleDBでQuery With Attributesがリリース | ||
9 | AWS向けにOracle製品のライセンスが提供 | |
10 | Amazon EC2でWindows Serverをサポート | |
11 | AWS向けのForce.com ToolkitがSalesforce.comから発表 | |
CapgeminiがCloud Computing Center of Excellenceを発表 | ||
Amazon CloudFrontを提供 | ||
12 | Public Data Sets on AWSを提供 | |
Amazon EC2が大西洋をわたる |
特に対外的テクノロジストとしては多くの顧客が直面している問題からそれらを包含する規則性を見つけ出すことが重要です。そして、顧客が抱えている技術的な課題を素早く深いレベルで把握して、それをクラウドでどのように改善していけるかに取り組んでいきます。
わたしは顧客の声を代表する立場ですが、会社の方向性まで決めているわけではありません。よりよい仕事にしていくために、AWSはすべてチームワークで決めているのです。個々のサービスについても同様で、その方向性もチームワークで定めていきます。もちろん顧客の声をフィードバックすることは重要です。
たとえば5月26日からリレーショナルデータベース(RDB)サービス「Amazon Relational Database Service(Amazon RDS)」が「Oracle Database」に対応していますが、これも顧客の要望に対応したものです。Amazon RDSの提供を始めたときから複数のDBに対応させることは決まっていました。でも、そのタイミングや優先順位を決める上では顧客の声を参考にしています。
RDBエンジンのサポートは「MySQL」に続く第2弾となります。最初にMySQLに対応したのは、「WordPress」や「Ruby on Rails」など多くのオープンソースソフトウェアがMySQLに対応していたためです。これは正解だったと思っています。いち早く提供することで、顧客に経験を積んでいただくことができたからです。
また、AWSだけでなく当社のパートナー企業も顧客の声に耳を傾けています。OracleやSAPといったパートナー企業がAWS上ですべてのソフトウェアのサポートを認定していることも顧客からの声に応じたもので、多く利用されているスイート製品もサポートしています。たとえば「Oracle E-Business Suite」や「SAP BusinessObjects」などに代表されるソフトウェアが(AWS上で)広範に使われているのです。
ハードウェアは自社で設計
――AWSはPaaSのフロントランナーだと思います。その一方で、force.com、VMforce、Google App Engine、Windows Azureなども台頭しています。その上でAWSの技術的な優位性は何でしょうか?
AWSは顧客志向で活動していますので、競合他社が何をしているかよく分かりません(笑)。それだけに自社サービスの強みや特徴は把握しています。