「ビッグデータ」がもたらす機会と課題--特集「ビッグデータとは何か」 - (page 2)

栗原潔 (テックバイザージェイピー)

2011-08-30 18:48

 今までの典型的企業情報システムでは、「ビッグデータ」という大容量+非定型+リアルタイムというデータは必ずしも一般的ではなかった。大容量データウェアハウスを稼働する企業は少なからず存在したが、そのようなデータウェアハウスに格納されているデータの大部分は定型データ、つまり、文字列や数値データであった。一方、文書管理システムなどで非定型データを扱っている企業も多いが、それほどデータは大容量ではないことが通常であり、リアルタイム性が低いスタティックなデータであることも多かった。企業は、「ビッグデータ」に向けて自社のデータ管理テクノロジ、そして、データ管理ポリシーを再検討すべき段階に来ている。企業のデータ管理は転換点を迎えているのだ。

 しかし、「ビッグデータ」の処理に関してよく耳にするNoSQL、Hadoop(MapReduce)をあらゆる企業が直ちに導入すべきという段階ではない。これらのテクノロジはまだキャズムを越えてメインストリームの状態になったとは言い難く、多くの未成熟な点を残している。ユーザー企業は、これらの新規テクノロジとRDBMSに代表される既存の実績あるテクノロジを適材適所で組み合わせて活用しつつ、「ビッグデータ」の価値を段階的に享受できるような戦略を立案する必要がある。

「ビッグデータ」がもたらす課題

 「ビッグデータ」を有効に活用するためにはテクノロジ面で新たな考え方が必要になる。しかし、ユーザー企業が「ビッグデータ」を差別化要素として活用していく上で真の課題となるのはテクノロジ以外の要素だろう。

 第一に、テクノロジを活用するスキルの問題がある。特に大量のデータからビジネスへの価値をもたらす知見を得る、分析能力を持った人材の確保が困難になることが予測される。前述のMGIの調査レポートでは、米国において高度な分析スキルを持った人材が14万人から19万人不足すると予測されている。人材流動性が低い日本においては、これはさらに大きな問題になるかもしれない。

 また、データテクノロジではなく、データそのものに対する戦略の不足も問題となる可能性が高い。これは日米共に当てはまる動向だが、多くの企業のIT部門がデータテクノロジ戦略に多くの労力を傾けてきた一方で、データ戦略に十分な資源を振り向けてきたとは言い難い。これはデータの管理ポリシーという点でもデータの応用という点でも当てはまることだ。

 「ビッグデータ」の管理ポリシー、たとえば、バックアップポリシーが明確に定まっていないと、企業ITに許容できない無駄が発生してしまう。また、「ビッグデータ」の応用という点では、IT部門は今まで以上に業務部門との緊密な連携を求められるようになるだろう。「ビッグデータ」の活用の教科書はまだない。業務部門から斬新なアイデアを引き出しITソリューションを構築する能力がIT部門、そして、ソリューションプロバイダーにとってきわめて重要になるだろう。

 「ビッグデータ」は新たな価値、新たな競合、そして、新たな課題を生み出す。それは、テクノロジを利用する側のユーザー企業においても、テクノロジを提供する側においても同様だ。本特集「ビッグデータとは何か」の以降の回においてその本質を探っていくこととしよう。

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