Steve Jobs氏を語る上で、その数々の功績は枚挙にいとまがないだろう。
だが、そうした取り組みのなかでも、あまり触れられることがないものに、大胆な流通施策があげられる。
これは「Apple製品を無駄がない流通ルートで販売する」というJobs氏のシンプルな発想のもとに打ち出されたものだった。
しかし、この施策によって当時、業界には大激震が走ったことを記憶している読者は意外と少ないだろう。
AppleによるNeXT社の買収によって同社に復帰したJobs氏は、1998年8月に発売したiMacによって、新たなAppleの時代を切り開いて見せたが、その時に打ち出したのがこの大胆な流通施策だった。
まず、Jobs氏はiMacの発売に際して大手コンピュータストアとの取引を、米国ではCompUSAの1社に絞り込んだ。それまで取り引きしていたBest BuyやCircuit Cityなどとの取引をすべて停止したのだ。
さらに全米に8000店舗あったVAR(付加価値販売店)のうち、4700店舗との取引を停止。長年に渡ってAppleを支え続けてきた販売店が、Apple製品を扱えなくなるという事態が生まれたのだ。
このとき、Appleが打ち出した契約継続条件は、今後も一定水準の売上高成長率を維持すること、ソリューションを中心とした販売・保守体制を有していること、Appleへの貢献を明確に示せること、需要の高い都市圏に立地していること、そのエリアにおいて継続的な市場成長が見込まれるといった点だ。
つまり、成長率が低く、努力をしていない販売店は切り、さらに地方都市ではiMacを売るための販売店は置かず、代わりにネット直販でこれをカバーするという施策を打ち出したのだ。
これは日本でも同様のことが行われた。