『エスケープベロシティ』解説(第1回):カテゴリー力(1)--凋落したカテゴリーで地位を築いても意味がない

栗原潔 (テックバイザージェイピー) 2012年01月04日 15時56分

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 これから何回かにわけてジェフリームーア著、拙訳(編註:栗原潔氏)の『エスケープベロシティ』の主要ポイントについて解説していこうと思います。

 前回は「力の階層(Hierarchy of Power)」というフレームワーク(より正確に言えば「フレームワークのフレームワーク」)について紹介しました。おさらいしておくと、下記の各レイヤーに分けて脱出速度達成の戦略を立案しましょうということです。

  1. カテゴリー力
  2. 企業力
  3. 市場力
  4. 製品力
  5. 実行力

 「力の階層」がこういう順番になっているのは意味があって、投資家が投資を行なう際の意思決定プロセスにヒントを得ています。つまり、投資家はまずどのカテゴリーに投資するかを決め、次にどの企業に投資するかを決め、その企業の特定市場でのポジションや製品の競争力に注目する…というような流れに沿っています

 『エスケープベロシティ』では各章にひとつの力を割く構成になっています(加えて導入章とまとめの章で計7章)ので、本ブログでも各階層ごとに観ていくことにします。まずは、カテゴリー力から解説していきましょう。カテゴリー力は説明がちょっと長くなるので2回に分けます。

 ここでいう「カテゴリー」とは「市場カテゴリー」のことです。成長中のカテゴリーに参入することは企業が成功するための第一歩です。

 カテゴリー力の重要性としてNewsweekやBusinessWeekという超有名メディアが1ドルで買収された一方で3PARという比較的無名のストレージベンダーが23億ドルで買収された例が挙げられています。要は、凋落しているカテゴリーで強力な地位を築いていてもあまり意味がないということであります。

 また、Appleの現在の成功は、スマートフォン、タブレット、デジタルメディアという急成長カテゴリーを押さえたことが大きいわけですが、その一方で最近ちょっと勢いがないDellは(凋落したとまでは言えないものの)成長が鈍化したPCというカテゴリーに基本的に留まっていることが大きな理由であるとしています。

 このように重要なカテゴリー力獲得のためのフレームワークとして使用できるのが「カテゴリー成熟化ライフサイクル」です。このモデルは『ライフサイクルイノベーション』の第2部で詳しく解説されています(下の図はムーア氏の公式サイトから引用)。

カテゴリー成熟化ライフサイクル
カテゴリー成熟化ライフサイクル

 カテゴリー成熟化ライフサイクルの基本的考え方はシンプルです。要は、市場カテゴリーは時間の経過と共に、A.新興→B.成長→C.成熟→D.衰退→E.終焉というステージを経ていくといううことです。なお、ちょっと間違いやすいのですが、キャズムは「カテゴリー成熟化ライフサイクル」の要素ではありません。「カテゴリー成熟化ライフサイクル」の新興カテゴリー(A)における「テクノロジー導入ライフサイクル」の一構成要素です(こんなややこしい形態になっているのは、おそらく『キャズム』でいったん完結したモデル化に、それ以降の成熟化から衰退に至るモデルを後付けで加えたからでしょう)。

 さて、カテゴリー力獲得のポイントはきわめてシンプルで、ステージCで周期的成長による利益を安定して獲得しつつ、経営資源をステージAやステージBに投入して千載一遇の成長による莫大なカテゴリー力を得ることにあります(さらに、ステージEに行く前にステージDのカテゴリーから撤退することも重要です)。たとえば、Appleはこのやり方で成功しました。

 しかし、多くの大企業の事業ポートフォリオを見るとこういう風には動いていません。ステージCの稼ぎ頭にフォーカスするあまり、千載一遇の成長への投資がおろそかになっています。正確にいうと、新規投資は行なっているのですが、現状維持の抵抗力に打ち勝てず中途半端な投資しか行えていません。つまり、脱出速度が達成できていない状況です。

 このような状況を打破するための考え方として、3ホライゾン・モデルという考え方が提唱されているのですが、ちょっと長くなりましたので次回に回します。

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ZDNet Japan編集部:本稿はブログ「栗原潔のIT弁理士日記」からの転載です。執筆者の栗原潔氏は、株式会社テックバイザージェイピー代表で弁理士。IT分野に特化した知財コンサルティングを提供しています。

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