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『エスケープベロシティ』解説(第5回):市場力--「牛後よりも鶏口」の戦略

栗原潔 (テックバイザージェイピー)

2012-01-12 17:03

 今回は市場力に関する解説です。市場力とは特定市場における企業力のことです。カテゴリー力と市場力の違いがわかりにくいかもしれませんが、カテゴリー力が市場カテゴリー全体の話をしているのに対して、市場力はカテゴリー内の特定市場の話になる点が違います。市場セグメント力とでも命名した方が(語呂は悪いですが)わかりやすかったかもしれません。

 市場力が重要になる例を挙げると、たとえば、サーチエンジンという市場カテゴリー全体で見るとGoogleがダントツのリーダーですが、中国のサーチエンジン市場というセグメントで見れば百度がリーダーです(つまり市場力が大きいです)。ネットオークションのカテゴリではeBayがリーダーですが、日本に絞ればヤフオクがリーダーです(そして、eBayは二番手というレベルですらなくほとんど存在感がありません)。百度やヤフージャパンは高い市場力を享受しています。

 このように地域で絞った市場セグメント以外にも顧客で絞った市場セグメントも考えられます。DBMSというカテゴリーではOracleがリーダーですが、ウォール街証券会社のDBMSというセグメントではSybaseがリーダーです。HP NonStop(旧Tandem)なんて商売になってるのと思う人もいるかもしれませんが、証券取引所やATM向けのマシンとしてはダントツです。

 カテゴリー全体で先頭集団から遅れて苦労するよりも、市場を絞って特定市場でリーダーになった方(つまり市場力を獲得した方)が企業にとっても、株主にとっても、そして、多くの場合、従業員にとっても望ましいことが多いです。要は牛後よりも鶏口を取る戦略です。

 鶏口に退くのは必ずしもネガティブな戦略ではありません。ニッチ市場で市場力を獲得して、一回り大きくなって返り咲くことも十分にあり得ます。たとえば、Sybaseは、証券会社向けにフォーカスしつつ市場力を獲得した上で、モバイル管理等の新規機会に積極的に投資することで、かつての苦難の時から比較すれば企業価値を飛躍的に拡大し、SAPに好条件で買収してもらえました。

 市場力獲得のために特定市場セグメントを選ぶ場合には、(1)企業に十分な収益機会を提供するほど大きく、(2)同時に企業がそこでトップになれるほど小さく、かつ、(3)企業の「クラウン・ジュエル」(コア)と合致している市場を選ぶことが必要です。要は、自社に合った「ビッグニッチ」を選ぶことが重要です。

 市場力の議論は、牛後から鶏口へ映るという守りの局面だけではなく、転換期にある市場を攻めるという攻めの局面でも市場力獲得戦略は重要です。これをターゲット市場計画(TMI)と読んでいます。

 『エスケープベロシティ』ではTMIのポイントについて説明しています。特定顧客の共通の悩み事にフォーカスすること、営業はトップダウンで攻めること、完全なソリューション(ホールプロダクト)を最初に示すこと、価格の話は二の次とすること、等々が挙げられています。モデルというよりはムーア氏が現実に経験してきた事例から得られたヒント集のような感じです。ここで説明し出すとちょっと長くなりますので、詳細は本を読んでください。

 次回は製品力の解説です。

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ZDNet Japan編集部:本稿はブログ「栗原潔のIT弁理士日記」からの転載です。執筆者の栗原潔氏は、株式会社テックバイザージェイピー代表で弁理士。IT分野に特化した知財コンサルティングを提供しています。

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