企業システムの一部を「クラウド化する理由」を考えるとき、多くの場合「守り」と「攻め」の要素を併せて検討することになる。導入や運用管理にあたっての「コスト削減」という観点は、いわば「守り」の要素。一方で、ビジネスの環境変化へ迅速に対応することなどを目指し、積極的にクラウドを採用していこうというのは「攻め」の要素といえる。
この「守り」と「攻め」の双方を検討し、顧客とのコンタクトポイント全般で迅速に情報共有を可能にするシステムとして、オラクルのSaaS型CRMである「Oracle CRM On Demand」を導入したのが、マネースクウェア・ジャパン(M2J)である。
「守り」と「攻め」の両方を見据えたSaaS導入
2002年設立の同社は、個人投資家向けに外国為替取引(FX取引)を核とした資産運用サービスを提供しており、現在約4万の会員を抱える。個人投資家が効果的にFX取引を行えるよう、各顧客への手厚いコンサルティングや運用サービスを行っていくことで、他社との差別化を図っている点が特徴で、そのためには単純な取引金額ベースではなく、顧客を中心とした情報の統合管理や、その可視化が必要になっていた。
マネースクウェア・ジャパン 情報戦略室 飯盛美季氏
M2Jでは2004年より、顧客管理システムとして「Salesforce CRM」を導入していた。M2Jの情報戦略室に所属する飯盛(いさかり)美季氏は、「初期のCRMシステムは、基幹システム、データウェアハウス(DWH)など、業務に使っている他のシステムから独立していた。2008年の時点で、基幹システムやウェブデータベースとの接続を行うと同時に、システム全体での統制を強化することになり、その際、改めて製品選定を行ってCRM On Demandへの移行を決めた」と話す。
導入決定の決め手は、「ランニングコストの安さ」と「データの可視化(BI)機能が充実していた点」であったという。同社では2008年の10月に導入を決定して移行作業を開始。約2カ月後の12月に移行を完了した。もともとSaaSベースのCRMを活用していたこともあり、ユーザーのトレーニングなども含めて、移行作業はスムーズに進んだという。
「移行に必要だった時間のほとんどは、システム連携を前提としたデータの品質向上に費やした。もともと独立して稼働していたシステムであり、他のシステムで使っているデータとの整合性やデータ構造などが考慮されておらず、入力ミスによる不整合なども起きていた。システムの移行後は、重要なデータをプルダウンで入力させるなどの方法を使って、データの管理を強化した」(飯盛氏)
サイロ化したシステムで使われているデータの品質の低さが、他のシステムとの連携や統合を行う際の障害になるというのは、以前から問題として指摘されていたことだ。システム間のスムーズなデータ連携によって実現する、リアルタイムな情報共有によって付加価値を生み出していこうとする場合、データの品質を高める意味でのデータマネジメントは重要な意味を持つ。