業務のためのITシステムの一部に「クラウド」を導入するケースが、徐々に増えつつある。安定したネットワーク環境さえ用意しておけば、サーバ周りの維持管理に手間がかからず、導入時のイニシャルコストも抑えられるクラウドサービスのメリットが、さまざまな規模や業種の企業で、次第に理解されつつある。
導入の経緯としては、既存システムのアップグレードや更新のタイミングに合わせて、業務とシステムを再検討し、その結果としてクラウドへ移行するといったケースも多いようだ。ドイツに本社を置き、世界20カ国、123社でカタログやウェブショップなどによる通信販売事業を展開する「オットーグループ」の日本法人であるオットージャパンも、そうした決断をした1社である。
オットージャパンでは、エディー・バウアー・ジャパンなどの関連企業も含めて約450ユーザー分のメールシステムを、マイクロソフトが提供するクラウドサービス「Office 365」によるExchange OnlineベースのWebメールへと全面的に移行した。2011年の8月末より新メールシステムの稼働を開始し、現在も運用を続けている。
Notesの保守終了と「震災」がクラウド移行のきっかけに
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同社では従来より、情報共有系の業務システム基盤としてIBM Lotus Notesを採用し、オンプレミスで運用していた。オットージャパン 情報システム部の北信彦氏は「近年の情報システムを取り巻く環境も鑑み、Notesの保守契約が終了するこのタイミングで、クラウドかオンプレミスか、そしてどの製品を利用するかを改めて検討することにした」と話す。
同社では、多くのNotes導入企業がそうであるように、メールシステムだけでなく社内掲示板やドキュメント共有管理といった用途にもNotesを活用している。その中で抱えていた課題のひとつは「メールボックスの容量不足」であったという。
北氏によれば、オンプレミスで運用していた旧来のメールシステムにおける1人あたりのメールボックス容量は300Mバイトほどしかなく、特に画像や動画データなどを多く扱う社員の間で容量不足による問題が頻繁に起こるようになっていた。近年では多くのクラウドサービスでギガバイトクラスのメール容量を標準として提供しており、この点がまずクラウドへの移行を後押しした。
さらに今回、クラウドへの移行を決定づけたもうひとつの理由が、2011年3月11日に発生した東日本大震災だという。「あの震災を経験したことで、オンプレミスでデータを持ち、管理し続けることのリスクを意識した。専任のスタッフがつけられない環境の中で、災害時にもシステムを止めず、業務に欠かせないサーバ上のデータをいかに守るかを考えるにあたって、クラウドは有効な選択肢になると判断した」と語る。