「期待外れ」あるいは「拍子抜け」……。 米国時間5月21日に米上院議会の調査小委員会(United States Senate Homeland Security Permanent Subcommittee on Investigations;以下、PSIまたは調査委員会)で開かれた聴聞会の印象をまとめようとして、真っ先に思い浮かんできたのはそんな言葉である。
[Tim Cook: Apple pays ‘all of the taxes we owe’(AP) - Washington Post]
Time CookらApple経営幹部が出席して宣誓証言を行ったこの聴聞会については、前日にCarl Levin委員長とJohn McCain議員が記者会見をし、Appleの節税行為を強い言葉で批難していた。そんなこともあって、「もしからしたら、議員側が隠し球でも出してきて、Cookを詰問するような場面も……」などと期待もしていたのだけれど、C-SPANで公開されている中継録画の映像(無編集のもの:註1)をみると、全体に淡々とした感じで会が進んでいったことがわかる。
春先から続く歳出強制削減("sequester")や、折からのIRS(米内国歳入庁)スキャンダルもあって税金関連の話題が否が応でも目につくような状況に加え、話題の主がApple(世界一の金満企業)ということもあって、この話題を伝えた媒体はたいていが「議員らがAppleを叩いた」「Tim Cookが自社の節税策を擁護」「Apple CEO、『税金逃れ』の嫌疑を却下」「90億ドルの納税逃れの主張に反論」などの強い語調の見出しをつけた記事を出している(註2)。上掲のAP動画なども、いちばん盛り上がった場面を切り貼りして、なんとかドラマチックに見せようとしているように思える。
だが実際の映像をみると、お互いが事前に公開していた報告書や資料を読み上げるような形で、質疑応答にしても(前日に公表されていた)調査報告書の内容を当事者に確認している、という感じ。野次馬の目からみて唯一面白かったのは、Rand Paul議員(註3)が「Appleの幹部をこんな場に引っ張り出してきて、見世物にしていることに私は気分を害している」「我々はAppleに謝り、彼らが雇用を生み出していることを褒める必要がある」「だれかを責めるなら、その相手はわれわれ議会(のメンバー)であり、こんなめちゃくちゃな状況をもたらした自分たちの姿を映す鏡を持ってくるべき」(註4)などと意見を述べたのを受けて、Levin委員長が「謝りたければお好きにどうぞ」などとかなり語気を荒めて述べていた部分くらいのもの。
「Appleの行為に違法なところはない」と調査委員会側が報告書の中で述べていたから、それ以上に突っ込みようもないのだろうが、ならばどうしてわざわざこんな聴聞会を開いたのか……。そう思うと、これを単なる「見世物」("show trial")と呼んだRand Paulの指摘に思わず同意したくもなる(註5)。
Rand Paulや父親のRon Paulが代表するような、いわゆる「Tea Party(茶会)派」の言い分--政府に税金を納めても無駄に使われるだけ--を認めるかどうかは別にして、今回の聴聞会の中で一番歯切れが良かった、あるいは分かりやすかったのは、このRand Paulの現状認識かもしれない。議会の責任を問う前述の発言以外にも、Paulは「税金を圧縮する策があるのを知りながら、それを見過ごすような企業幹部なら、責任を問われてクビを切られているだろう」などとも述べていた(註6)。
Paul: Apple Deserves Apology From U.S. Gov't
(Bloomberg TVで"Most Watched Videos"になっていたPaulの発言場面)