改めて浮き彫りになる立法側の不手際
Tim Cookが聴聞会の中で「Appleでは支払う税金はすべて支払っている」(“We pay all the taxes we owe, every single dollar”)と述べていたことは各媒体で報じられているが、この件ではこの税金算定の元になる利益の生み出され方がそもそも問題とされているので、税金をもっと取りたい議員・政府側と、納税義務を負う企業側の両者の話はかみ合わない。
また「各国の税制の抜け穴(loopholes)をついて、巨額の利益を国外の子会社に移し替え、何十億ドルもの税金を納めずにいる」などとする批難については、そんな抜け道があるのを知りながら放置しておいた側の方がよくない。つまり、批難された側では「まっとうな米国の企業市民として、一体どのくらいの税金を納めればいいのか」という具体的目安もなく、また「模範市民」たるべく35%の税金を納めていたら、いつ自分のクビが飛ぶかわからない(少なくとも、「オレの取り分をもっと増やしてくれ」という株主からの圧力がぐんと高まる)状況であることは明らかだからだ。
「錬金術」("alchemy")とか「幽霊会社」("ghost companies")といった言葉で攻撃されても、企業側では具体的な対応のしようがない。
少なくとも前回の「Repatriation Tax Holiday」(2004~05年)でいろいろ芳しくない影響が生じ、そのことが明らかになってからだいぶ時間が経過しているのだから、いくら簡単には解決できない問題だとしても、手をこまねいてきた立法側の責任は重いはずである。
Apple側からは、今後の議論に向けた叩き台となるような提案も出されている(註7)ので、これを取っ掛かりになるべく早くすっきりとした新たなルールを作った方がいいことは間違いないと思う。
スポットライトを浴びたアイルランドの立場
さて、今回の一件で、Appleが主に節税のために3つの子会社を置いているとされるアイルランドの状況や事情についても、改めてスポットライトが当たっている。話が一気に「大西洋を渡った」格好といえる。
Wall Street Journal(WSJ)の記事(註8)では「Appleを特別扱いしているということはない」「法人税は一律12.5%で払ってもらっている」「今回のような問題が生じるのは各国間の税制に違いがあるからで、アイルランドだけを悪者扱いされては困る」といった旨の政府筋のコメントが紹介されている(それほど面白い話というわけではない)。
一方、The New York Times(NYTimes)の記事(註9)には、歴史的経緯や現状の事実などが出ていて意外に面白い。例えば、AppleのほかGoogle、Facebook、Pfizer、Johnson & Johnson、Citigroupなども利用するようになったアイルランドの子会社(を通じた節税策)について、「アイルランドがまだ貧しかった1970~80年代に、海外からの投資を集めるネタがほかにほとんどなかったアイルランドが、当時はまだあまり使っていなかった税金(低率の法人税)を武器にして企業を集めた」とか、「国全体の人口が460万人に過ぎないアイルランドにとっては、Appleのもたらした4000人の雇用は無視できない数(だから、失業率15%という今の状況では、この雇用確保を優先するべき)」、そして「2008年の経済危機の後遺症でいまなお緊縮財政を迫られている(EUやIMFへの借入返済額がまだ800億ドルも残っている)中で、Appleをはじめとする多国籍企業だけが金太りしているという状況はおかしい」などとする批判派の声も紹介されている(註11)。
なおアイルランドに子会社を置いている米国企業の数は600社以上にのぼり、そこから生み出された雇用の数は10万人になるという(註12)
この記事には、アイルランドが経済危機の折にEUなどから借り入れようとした際、交換条件として法人税率の引き上げを求められたが「最後までクビを縦に振らなかった」(註13)とか、「たとえアイルランドが法人税率を引き上げたとしても、 ルクセンブルグやスロバキアといったほかの国が取って代わるだけ」といったことも記されている(註14)。