NSAスキャンダルが持つ真の意味とは?--事件報道に見られるジャーナリズムの崩壊 - (page 3)

Ed Bott (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 村上雅章 野崎裕子

2013-06-21 07:30

 真実は、元の記事が主張していたような大スクープではないし、物議を醸すほどのものでもないようだ。この報道で名指しされている企業すべては、法執行機関や裁判所からの令状に対応するための法的な手続きを確立している。そのいずれも、大規模な監視網に参加するようなものとはなっていないように見受けられる。

 また、その週末にThe Washington Postが報じた別の記事(3名による連名記事であるが、Barton Gellman氏も署名している)では、さらにトーンダウンし「直接アクセスしている」という主張すら取り下げられている。

 The Washington Postが入手した極秘文書には「収集は米国におけるサービスプロバイダー、すなわちMicrosoftと米Yahoo、Google、Facebook、Paltalk、AOL、Skype、YouTube、Appleのサーバから直接行われる」と記されている。

 情報機関の関係者らは、こういった表現が技術的には不正確であるものの、NSAにおけるアナリストの仕事に合致していると述べている。政府に雇用されている、PRISMへのアクセスを許された人物であれば、世界のどこからでもワークステーションを使用して当該システムに「タスク」を実行させ、インターネット企業の担当者とのさらなるやり取りを行わずとも結果を受け取ることができる。

 PRISMに関するNSAの公式な機密解説と、The Washington Postがインタビューを行った情報筋の言葉によると、情報機関の隠語でPRISMは、今回リークされた文書に記されたUS-984XNという「諜報対象識別(SIGAD)」に割り当てられたコード名であるという。SIGADによって電子情報の取得源、すなわちNSAがアクセスする対象と、情報の取得方法が表される。そういった点で、PRISMはコンピュータシステムの名称ではなく、FacebookやGoogleといった大手インターネット企業から情報を収集するための複数の技術と運用に付けられた名称と言える。

 The Washington Postが入手した、NSAの査察官による機密報告書に記載されているより正確な解説によると、PRISMによって企業のサーバに直接アクセスできるようになるわけではなく、「企業が管理している場所に設置されている機器に対して、情報収集の責任者が直接作業命令の内容を指示(送付)できるようになるのだという。PRISMの手続きに詳しい情報筋によると、企業は自らの施設内に設置されているシステムに向けて送られてきたNSAからの照会内容を見ることはできないという。
[強調は筆者]

 The Washington Postはどこで道を踏み誤ったのだろうか?

 The Washington Postがしでかした最大の過ちは、単一の匿名情報筋からリークされたPowerPointプレゼンテーションを元にして、補強証拠もなしに結論を導き出した点にある。McCullagh記者は同氏の情報筋(匿名ではない)であるNSAの元法律顧問Stewart Baker氏が、このスライドを評して「怪しげだ」と述べた旨を伝えている。

 Baker氏は「このPowerPointは状況報告用というよりも営業用として作成されたようなウソくささに満ちあふれている。これがどういった出自のものか不明であるうえ、その完全なコンテキストも明らかになっていない」と述べている。またThe Washington Postの報道について「大急ぎで記事を書いたように見えるうえ、誤っているようにも見える」とも述べている。

 「大急ぎで記事を書いた」という感想は、The Washington Postが24時間のうちにその内容を大幅に変更した理由を最も如実に表していると言える。通常の場合、こういった調査報道は公開前に徹底的に内容が検証されるはずだ。しかし同紙は、このプレゼンテーションが他の報道機関にもリークされていたため、スクープが台無しになるという恐れを抱いて公開を急いだように見受けられる。

 この報道がきっちりとした裏を取らずに公開されたというのは、The Huffington Postの報道からもうかがい知れる。

 The Washington Postは、他の報道機関によって先にこのスクープが報道される可能性を考えて、「公開に踏み切る決断を下した」のだということを、Gellman氏は最近確信した。Gellman氏はPRISMの記事について「あと1~2日は欲しかった」と述べていたものの、同紙はライバルに先を越されないために、早急に手を打つ必要があったというわけだ。

 当初、The Washington Postの情報源や、その結論に対して疑いの目を向ける者はほとんどいなかった。また、名指しされた大手IT企業による、関与を否定する声明に対する大方の見方は、そうした企業が言葉を注意深く選びつつ、一般的な論点を述べることで、具体的な主張に対する回答を避けているというものであった。実際のところ、こういった声明の主旨が似通ったものとなっていたのは、これらの企業がThe Washington PostとThe Guardianの記事に書かれていた特定の表現に対して反応していたために他ならない。

 このようにして公開を急いだ結果、インターネット上やケーブルニュースネットワーク上で大きな反響が巻き起こった。記事とその核心部分は、今では信ぴょう性に欠けたものとなっているものの、津々浦々にまで広がっているのである。

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