シリコンバレーの天才、D・エンゲルバート氏の悲劇的な人生

Tom Foremski (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 石橋啓一郎

2013-07-17 07:30

 コンピュータの世界の天才的先駆者であるDouglas Engelbart氏が88歳で亡くなったことが報じられると、ネット上には追悼の言葉があふれた。

 Engelbart氏の研究は、コンピュータをアクセス可能で「パーソナル」なものにし、現在のコンピュータの使い方を変えた。彼が行った、マウスとキーボードを使った独創性に富んだグラフィカルユーザーインターフェースのデモは、多くの研究者の進む道を変え、その人生を変えた。そこにおらず人づてにその話を聞いた人たちの人生までも(Engelbart氏が1968年に行ったデモ)。


Douglas Engelbart氏(左)とTom Foremski記者。

 ところが、Engelbart氏の才能に向けられる多くの賞賛や証言にもかかわらず、シリコンバレーは概して彼の取り組みを無視してきた。彼は何十年にもわたって自らのアイデアに対する出資者を探し続けており、話を聞いてくれる人さえ探さなければならないありさまだった。

カウンターカルチャーとPC

 私が彼に初めて会ったのは、2005年にXeroxのパロアルト研究所(PARC)で開かれたイベントの後のことだ。これは、John Markoff氏の著書、「パソコン創世『第3の神話』--カウンターカルチャーが育んだ夢」の出版記念イベントだった。

 このイベントはその本についてのもののはずだったが、Markoff氏と「Homebrew Computer Club」の多くのメンバー、そして彼の以前の同僚たちが、Engelbart氏の研究やアイデアの驚くべき影響と、それによっていかに人生が変わったかについて語ったため、そのイベントはEngelbart氏を讃える会に変わってしまった。

 参加した人は、次々に彼がいかに洞察力に優れ、聡明であるかを語り、まるでシリコンバレーのBuckminster Fuller(訳注:Fullerは19世紀に活躍した米国の偉大な思想家、建築家、発明家)であるかのようだった。中には、彼をレオナルド・ダ・ビンチに例える人もいた。

 そして後ろに座っていた年老いた人物が、マイクを渡されて話し始めたのを見て、私は驚いた。それがDoug Engelbart氏だった。誰もが過去の人として彼のことを話すのを聞いて、私は彼がずっと前に亡くなったと思っていたのだ。

 私はイベントが終わった後、近くのレストランで開かれた、登壇者とプレス関係者のディナーに招待された。私は遅刻したため、ほかの人はすでに全員が席に着いていた。誰もがNew York Timesの記者であるMarkoff氏の近くに行こうとして、同氏がいる大きな丸テーブルに群がっていた。

 私は、自分の幸運が信じられなかった。もう1つの半ば席が空いたテーブルに、Doug Engelbart氏が座っていたのだ。私は隣に座ってよいかと彼に尋ね、その後何時間も語り合った。私はそこで、まだ書かれたことのない偉大な物語を聞いた。それはパーソナルコンピュータ革命によって、業績のほとんどが葬り去られてしまった天才の物語であり、彼が自分の仕事と研究に出資してくれる企業を求めて、何十年もどう過ごしてきたかという話だった。

 これは、シリコンバレーが自らの歴史を知らず、世界を変えると宣言しながらほとんど何もできないPRに長けたビジネスマネージャーを優遇して、Doug Engelbart氏のような真のビジョンを持つ人物を邪険に扱う姿を描く物語でもあった。

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