組織の透明力

半沢直樹の戦略と派閥撲滅の秘策を考察する

斉藤徹(ループス・コミュニケーションズ) 2013年08月28日 11時00分

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やられたらやりかえす、倍返しだ。

 テレビドラマ『半沢直樹』の勢いが止まらない。大銀行の組織論理に対して、たじろぐことなくバンカーの矜持を貫き、理不尽な統制に立ち向かう半沢の姿勢が受けている。「基本は性善説。しかし、やられたら倍返し」が信条の半沢は、四面楚歌に追い込まれながらも、不正に関わった上層部、さらにごう慢な国税や金融庁との対立もいとわず、見事に非道に切り込み、自らの信念を貫いてゆく。

 僕は創業して二十年あまりだが、資金繰りにあえいだ時期が長く、百人を超す銀行員と、それこそ半沢の父のごとく付き合ってきた。なので、銀行の特性は肌身に染みて理解しているつもりだ。銀行という組織では、社員一人ひとりが大金を扱うために、純然たる性悪説に基づく厳格なシステムが構築されている。不正や癒着を防止するための長期休暇や転勤に加え、内部検査も頻繁に行われ、そこでミスが発覚すると取り返しの付かない汚点となってしまう。

 そんな相互監視された組織の中では「性善説」だけの付き合いなど単なる甘えと見なされるだけだ。半沢は少年期、父の倒産、自殺という体験から「バンカーの矜持」を得た。「将来性のある企業を支援し、産業を活性化させ、日本経済の発展に寄与する」という銀行が持つ崇高な使命。巨額の資金を扱う力を持つゆえに「人と人とのつながりを大切にして、ロボットみたいな仕事をしてはいけない」という仕事に対する価値観だ。

 しかしながら現実の行内は、銀行員が本来持つべき使命や価値観とは全く異なる原理で動いている。その中で、彼が父から譲り受けた美学を貫くための武器、それが「やられたら倍返し」の信条なのだろう。

 しかし、この戦略は本当に効果的なのだろうか。実際にドラマの中でも半沢は少数派だ。おとなしく上司の言うことを聞き、濡れ衣を被せられても我慢を貫く方がメリットは大きいかも知れない。いや、むしろ積極的に同僚を裏切った方が出世の早道ではないだろうか。

 今回の記事では、半沢戦略の優位性を考察するとともに、行内融和を図る中野渡頭取に対して、東京中央銀行の組織改革への提言を行ないたい。

協調と裏切り、囚人のジレンマ

 エゴイストは常に自分の利益のために他人を裏切るのだろうか。自発的に協調することなどありえないのだろうか。そんな問いに対する理論が「囚人のジレンマ」だ。二人のプレイヤーは協調と裏切りのいずれかを選択できる。自分だけのことを考えると、相手が協調しようと裏切ろうと、相手を裏切った方が必ず得になる。そのため、ともに協調した方が得であるにもかかわらず、必然的に二人とも裏切りを選んでしまう。これがジレンマの基本だ。

囚人のジレンマ
囚人のジレンマ

 僕自身、日本IBMのバブル入社組で、同期はなんと2000人いた。しかも5年連続で同規模の採用を続けた空前の売り手市場だった。同じようにバブル入行組の半沢たちは、多くの同期生たちと熾烈なポスト争いをせざるを得ないのだ。また銀行は減点主義のため、一度でも失敗すると出世競争から脱落して出向候補者となってしまう。同期100人に対して、50歳で本社に残れるのは数人という過酷さだ。受験生と同じように、いくら努力しても「出世の枠」が決まっているところがつらいのだ。

 つまり、社内競争過多のバブル入行組にとって、罠に嵌めてライバル脱落 > 協調しあって成果 > 警戒しあって牽制 > 罠に嵌められて脱落という、囚人のジレンマが成立する職場環境に陥ることが多いと言えるだろう。

 ただし、理論上の囚人のジレンマは「一回だけの付き合い」を想定しているのに対して、現実のビジネスにおける人間関係は継続的で、かつ期限がないことが多い。長期的に協調関係を維持する方が将来の利益が大きいと考えられる場合、相手を裏切るよりも互いに協力しあう関係を構築するほうが合理的だ。そのためエゴイストでも協力的になることが多くのジレンマ研究から明らかになっている。

 これからも会う可能性があると、付き合い方も変わってくるということだ。そのため職場での人間関係においては、裏切りよりも協力しあう関係になりやすい。それでも行内は油断できない。いつ生き馬の目を抜かれるか、一時も油断できないのが銀行という組織の特性だからだ。

 では、そのようなケースでは、どういう行動が最もリーズナブルなのだろうか。そんな「つきあい方の科学」について、コンピュータを使ってシミュレーションした研究(*1)があるので紹介したい。

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