「異花受粉」が鍵--TeslaとSpaceXのマスクCEOが語るイノベーション

末岡洋子

2014-01-21 07:30

「Fortune」の表紙を飾ったMusk氏
「Fortune」の表紙を飾ったMusk氏

 2013年12月に発刊されたビジネス誌「Fortune」の表紙を飾ったのは、火星らしき巨大な画像をバックに腕を組んで遠くを見るElon Musk氏だ。Musk氏は同紙が選ぶ「2013年のビジネスパーソン」のナンバーワンに選ばれた。

 ロケット開発と打ち上げのSpaceX、そして電気自動車のTesla Motorsを創業し、現在でも最高経営責任者(CEO)として両社を率いるMusk氏を「そのアイデアとビジョンは投資家と消費者の両方から誠意を持って受け入れられている」とFortuneは評価している。

 そのMusk氏が12月中旬、米Dellが米オースティンで開催したカンファレンス「Dell World 2013」に登場し、成功と危機、技術やイノベーションに対する自身の信念について対談形式で語った。

「巨大なタンカーのように迫っている」CO2排出量問題

 Musk氏は、Dell創業者兼CEOのMichael Dell氏の基調講演の後に登場した――正確には、Musk氏を乗せた深紅の「Model S」が会場の脇をゆっくりと進みステージ横で停止、そこから降車してステージに上がった。だが、その豪華なModel Sのたたずまいや自動車で登場するという大胆な演出とは対照的に、ステージ上でのMusk氏は控えめに映る。

 1時間近くに及ぶ対談中、Musk氏は賛辞に対してははにかんで応じ、時には「言い過ぎだ」と否定した。質問には言葉を選び、時に沈黙を交えて真摯(しんし)に応じた。その横顔からは「努力家」とか「誠実」、あるいは「理性の人」「地に足がついた」という言葉を連想せずにはいられなかった。

Michael Dell氏の基調講演の後に登場したMusk氏
Michael Dell氏の基調講演の後に登場したMusk氏

 モデレーターを務めたTechnomy(ハイテク情報サイト)のDavid Kirtpatrick氏は、Teslaから話を始めた。Musk氏が電気自動車メーカーのTeslaを創業したのは2003年のことだ。今でこそ知名度が上がっているが、自動車大国・石油経済といわれてきた米国で電気自動車企業を立ち上げるというのは、そう簡単ではなかったようだ。

 Musk氏はステージ上で業績について一言も触れなかったが、Teslaは2013年第1四半期に創業10年目にして初めて黒字化を達成、第3四半期は売上高が前年同期比8倍で伸びている(だが第3四半期は研究開発費が増えたことなどから損失計上)。

 Tesla創業についてMusk氏は、「世界を良い方向に動かす可能性があることをするのが好き」としながら「電気自動車へ向けた動きを加速する必要があった」と付け加える。Musk氏はPayPalの前身となるX.comを1999年に創業、その後の売却により財を得ていた。

 大学で物理学を専攻したMusk氏は、当時から電気自動車の未来を信じていたというが、その決意をさらに揺るぎないものにしたのは2006年のドキュメンタリー映画「Who Killed the Electric Car?」だったという。

 「(既存の)大手自動車メーカーだけでは、魅力的な電気事業車はなかなか登場しない。新しい企業が電気自動車を作らないと、持続性のある輸送手段の実現には時間がかかる」とMusk氏、「最終的には、ロケットを除くすべての輸送手段は電気ベースになるだろう」とも予言する。

 土台の問題として挙げるのが、なかなか増加に歯止めがかからないCO2排出量とその脅威だ。この問題を「超大型タンカーみたいに(大きな課題が)霧の中から突然表れ、こちらに向かっている。もうタンカーの方角を変えることはできない」と例える。だが迫り来る巨大なタンカーに対して、われわれは急には動きが取れない。「世界の産業を(石油ベースから)持続性のあるエネルギーベースに移行するには、10年単位で測定する必要がある」とMusk氏。

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