可視化から予測に進化、充電器スタンドの不具合を発見--ホンダのデータ活用術

齋藤公二 (インサイト) 2014年06月05日 08時00分

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 「データサイエンティストの確保をどうしようかと悩んだが、まずは内部育成を目指し、若手エンジニアの育成からスタートした」――。

 5月21~22日に開催されたイベント「IBM Software XCITE Spring 2014」の特別講演で本田技術研究所 上席研究員の横山利夫氏が同社のビッグデータへの取り組みを解説した。

 ホンダのビッグデータ活用事例は、東日本大震災の際にも活用された交通情報サービス「インターナビ・リンク」や、IBMと進めている電気自動車(EV)「フィットEV」におけるバッテリ稼働状況の把握などがよく知られている。横山氏は、こうした実績を生んだ本田技術研究所の取り組みの中からデータマイニング教育、フィットEV開発の背景とさらなる活用事例、ビッグデータを活用した「新価値創造」の3点を紹介した。

横山利夫氏
本田技術研究所 上席研究員 横山利夫氏

 本田技術研究所は本田宗一郎氏によって1960年に設立され、現在北米、欧州など14の拠点で活動する。ビッグデータ活用の目的は「顧客を理解し快適なドライビングやタイムリーな情報を提供すること」であり、適用領域としては大きく「新価値創造」「商品性向上」「品質向上・コスト低減」「開発システム進化」という4つのドメインがあるという。

 「取り組みを始めた当初はビッグデータで何ができるのか漠然としていた。今では、直感やひらめきにビッグデータ分析が加わることで具体的にどうなるかについて、これら4つのドメインの上で高い次元で具現化していくことだと考えるようになった」(横山氏)

 社内でビッグデータに関連する取り組みにどのようなものがあるかを調査したところ、研究開発が順調に進んでいるもの、構想段階のもの、すでに実際の運用が始まっているものなどさまざま進度が確認できた。そこで、4つのドメインごとに進度を「可視化」「現状分析」「予測(予防)」の段階に分けて取り組みを整理したという。

 1つめのデータマイニング教育では、「膨大なデータから宝を掘り当ててくれるようなデータサイエンティストの確保をどうしようかと悩んだが、まずは内部育成を目指し、若手エンジニアの育成からスタートした」という。

 同社では、エンジニアリングを分析、予測していたが、これらは過去のモデルに基づいたもので、因果関係から解を導くことができるものだった。新たな試みは、ビッグデータから相関を発見し、モデルを作る方法であり、因果関係が見られないこともある。「これらはエンジニアにとってはわかりづらい分野」だったという。

 データマイニング基礎講座を開催し、IBMのマイニングソフトウェア「SPSS Modeler」とデータマイニング手法である「CRISP-Data Mining」を習得。講習を受けた若手エンジニアの取り組みの成果として、2つの事例を紹介した。

 1つは、インターナビのデータを利用して急減速と事故を分析し、急減速が多発している交差点を抽出した「インターナビ安全暗転コーチング」サービス。もう1つは、多岐にわたる操安性能(タイヤ反力)への影響因子を分析し、タイヤ反力予測モデルの構築可能性を検証することで、次世代EPS(電動パワーステアリング)のセッティングに適用しようとしているケース。エンジニアの声として「講習が負担になるどころか業務の効率が上がった」「ひとつのツールですべてが叶うわけではなく使い分けが必要」などを紹介した。

 2つめの取り組みとして紹介したフィットEVは、2012年に日米でリース販売した全1300台について、携帯電話回線でバッテリの稼働状況を取得し、性能劣化を観測している事例だ。走行開始から1年で累計395万km、データ容量は約40Gバイト、データレコードは約2億件に達している。

 「当初は状況の可視化と分析が目的だったが、現在では、予測分析に進化した。バッテリ組み付け時の不具合がモニタを通じて早期発見できたというケース、以前は不具合があったときに全数検査する必要があったものが、今では1件の不具合を把握して人を特定して早期対応したというケースが出ている。データ量増加とともに知見獲得にエネルギーを注げるようになった」(横山氏)

 さらなる活用としては、充電器スタンドの不具合発見につながったケースを紹介した。ホンダのEVトレーサビリティデータと、充電ステーション側のデータを照合することで、充電コネクタに不良があったことを把握。それをもとにステーションに改善を依頼するといった連携が可能になったことを紹介した。

 3つめの新価値創造については、ウェブ上のデータをテキストマイニングして好評と不評を可視化したり、特許文書の分析などに活用している事例だ。そうした評価軸を社内の評価軸と組み合わせ、車に対する評価の相関を分析したりしている。

 圧倒的な新価値創造には、自動車の進化だけではなく、さまざまなエキスパートによるアイデアの発掘が欠かせないと考え、アプローチの異なる3つのチームに分かれて取り組みを進めているという。

 横山氏は、ビッグデータの特徴は、人間にはできないスピードで情報処理ができること、膨大な量のデータを精度をもった予測を数理的に出してくれること、知見をあっという間に共有できることと説明。「ビッグデータを活用し、新たなアプローチで顧客一人ひとりの感性にあわせた車づくりにチャレンジしていきたい」と強調した。

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