ビッグデータに対する期待が高まっている。その一方で、以前から指摘されていた「あまり効果がないのではないか」という疑問もまた浮上しつつある。ビッグデータに企業はどのように取り組めばいいのだろうか。
5月22~23日に開かれたイベント「ガートナー ビジネス・インテリジェンス&情報活用 サミット 2014」(ガートナー ジャパン主催)の初日の基調講演「アナリティクスがもたらすビジネスの未来:意思決定、透明性、パーソナル化」では、3人のアナリストがビッグデータやアナリティクスにまつわる論点を3つのペルソナをそれぞれ演じながら解説するというユニークな構成の講演となった。
ペルソナは、エバンジェリスト(evangelist)、懐疑主義者(skeptic)、現実主義者(pragmatist)の3つ。エバンジェリストは、アナリティクスの未来を楽観視し、ビッグデータを積極的に活用をすべきだとする立場。懐疑主義者は行き過ぎた情報収集やプライバシーの取り扱いに危惧を感じ、ビッグデータの活用に慎重な立場。現実主義者は、それぞれのメリット、デメリットを踏まえて現実的な路線を取る立場だ。主要な論点は、意思決定、透明性、パーソナル化の3つだ。
Gartner リサーチ ディレクター Joao Tapadinhas氏
エバンジェリスト「われわれの生活は大きく改善する」
エバンジェリストを演じたのは、Gartner リサーチ ディレクターのJoao Tapadinhas氏。Tapadinhas氏は「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」というSF作家Arthur C. Clarkeの言葉を取り上げながら、現在のアナリティクスが生活の中に浸透し、これまでにない変革をもたらしていることを紹介した。
「情報とアナリティクスは企業競争力の源泉になった。動画ストリーミングのNetflix、信販のAmerican Express、自動車のFord、医薬のGlaxoSmithKlineなどは“情報中心(Information Centric)”であることで業績を伸ばしている」(Tapadinhas氏)
消費者は“アナリティクスによる魔法”をかけられていることに気づかないこともある。たとえば、スマートメーターだ。スマートメーターは家庭での電力消費を計測するものだが、それにとどまらない活用法が想定されている。
「電力消費のシグネチャパターンを分析することで、家庭内でどの商品がいつどのくらい使われているかまで知ることができる」(Tapadinhas氏)のだという。家電製品のマーケターや電力会社はこうした情報を使って、さらに付加価値のある商品を開発することができる。
SF作家Arthur C. Clarkeの有名な言葉
センチメント分析も進んだ。特定のツールを使えば、ソーシャルの書き込みを分析するだけで、その個人が楽観的か理想的か、オープンかなどといったプロフィールを作成することができる。センサを組み込んだTシャツが開発されており、そのTシャツを着ているだけで血圧や心拍を測り、リラックスしているか緊張状態にあるかといった状態を把握するできる。
興味深いのは、このTシャツを開発する企業は、自らをテクノロジ企業ではなく、スマートファッションブランドと認識していること。今日では、アナリティクスは“モノのインターネット(Internet of Things:IoT)”の分野に入り込んできており、「テクノロジ自身が消えつつある」のだという。
「ダッシュボードを見てレポートを提出するといったBI(ビジネスインテリジェンス)は過去のものだ。4年前のBIとも違っている。配信先はタブレットやスマートフォンではなく、街の中のどこかであり、情報を受ける場所によって変えることができる。そして、このときに重要になるのは、企業がデータを収集するだけでなく、顧客自身がデータを収集しているということだ」(Tapadinhas氏)
コンタクトレンズのセンサからブドウ糖の量を測り医療に生かそうという試みがある。また、眼球の動きを測って刺激を出し居眠りを防止したり、おむつのセンサから得たデータをもとに生活改善につなげたりする試みもある。
「われわれ個人が自分のデータを活用するようになる。従来型のアナリティクスをはるかに凌駕した活用方法だ。こうしたパーソナル化が進んだデータは、信頼のおける情報サプライヤーと共有することで透明性を高く保つことができる。個人は、それをもとに適切に意思決定して生活を変えることができる」(Tapadinhas氏)
Gartner リサーチ バイスプレジデント Frank Buytendijk氏
懐疑主義者「技術が制御できないというリスク」
「ちょっと待ってほしい、それは素晴らしいビジョンだが、鵜呑みにはできない」と話を遮るように登場したのが懐疑主義者だ。懐疑主義者を演じたのは、Gartner リサーチ バイスプレジデントのFrank Buytendijk氏。
「素晴らしい世界の裏には必ず心配事がある。ハイプサイクルを見ると、ビッグデータは、過度な期待のピーク期にある。このあとは幻滅期に入るだけだ。実際、期待していたROI(投資対効果)が得られなかった、技術にムダに投資してしまったという声を今でも聞くことができる。ビッグデータへの課題は大きいと言わざるをえない」(Buytendijk氏)
Gartnerの調査によると、ビッグデータの最大の課題は「どのようにビッグデータから価値を得るか」だという。これは、PoC(概念実証)し、データを集めたはいいが、それで何をするのかというケースだ。