米Amazon.comのクラウドサービス事業の成長が、ここにきて減速していることが明らかになった。要因は何なのか。競合状況において今後起こり得ることは何か。
競合の激しい価格競争が減速の要因
Amazon.comが先ごろ発表した2014年会計年度第2四半期(2014年4~6月期)の決算は、売上高が193億4000万ドルで前年同期比23%増加したものの、純損失が1億2600万ドルと前年同期の700万ドルから拡大した。営業損益も1500万ドルの赤字となった。設備投資の増加などで赤字幅が拡大したようだが、投資家の間ではクラウドサービス事業の成長減速を懸念する声が上がっているという。
同社は決算において、傘下のAmazon Web Sevices(AWS)のクラウドサービス事業を広告事業などと合わせて「その他」部門としており、同部門の第2四半期の業績は前年同期比37%増の12億1800万ドルだった。この大半がクラウドサービス事業とみられるが、実は同部門の売上高はこれまで2年以上にわたって前年比で毎四半期50%以上の急成長を遂げてきた。それが37%に減速したのだ。
見方によっては少し鈍化しただけとも受け取れる。しかも全体の売上高からするとまだ規模も小さいクラウドサービス事業だが、全体の赤字幅を拡大させた要因の1つになっているようだ。それにも増して、投資家が成長減速を懸念するのは、同事業がAmazonの今後の成長の柱になると見ているからだ。だからこそ今回の動きには敏感に反応したようだ。
成長減速の要因は、米Microsoftや米Googleなど競合他社との価格競争が激化したことにある。Amazonもサービスの大幅値下げを実施した。同社のTom Szkutak最高財務責任者(CFO)も価格変更が響いたことを認め、さらに「クラウドサービス事業は短期的には成長が鈍化する」と、しばらく影響があるとの見方を示した。
新たなクラウドプラットフォーム競争へ
これまで急成長を続けてきたAmazonのクラウドサービス事業の減速は、果たして短期的な動きなのか。それとも市場に新たな変化が起こり得る前触れなのか。そこで注目されるのは、これまでAmazonが先行してきたIaaS市場が今後どう変化していくのか、である。というのは、「これからはPaaSとIaaSが融合してクラウドプラットフォームといわれるようになる」と見る向きも少なくないからだ。
その点、Amazonと競合するMicrosoftやGoogleは、PaaSからIaaSへサービスを拡大してきた経緯があり、両社とも元々PaaSにアドバンテージがあることから、クラウドプラットフォーム市場をPaaS中心の構造にしたいとの思惑があると見られる。
したがって、MicrosoftやGoogleはIaaS市場での激しい価格競争によってAmazonの勢いをそぎながら、クラウドプラットフォームの“土俵”をPaaSにシフトさせようとしているように映る。今回のAmazonの第2四半期決算に表れたクラウドサービス事業の減速は、そうしたMicrosoftやGoogleの攻勢が奏効したようにも見える。
とはいえ、AmazonのIaaSはさまざまなクラウドや個別の製品、サービスを展開する多くの事業者とともに巨大なエコシステムが形成されつつある。ユーザー企業の間でも「ITインフラについてはAmazonのIaaSで十分」との声をよく耳にする。AmazonのSzkutak CFOが「成長鈍化は短期的」としているのは、そうしたビジネス基盤に裏打ちされた自信の表れなのかもしれない。
今回のAmazonの変調が、今後のクラウドサービス市場にどう影響してくるのか。注意深く見ておきたい。