ニューヨーク発--Amazonの最高技術責任者(CTO)のWerner Vogels氏は「Amazon Web Services」(AWS)の顔だ。パブリッククラウドの利点を説くものの、ハイブリッドがエンタープライズの現実であることも認識しているテクノロジストでもある。
筆者は、AWS Summit 2014の基調講演を終えたVogels氏と、業界のことについて少し話をした。ここで注目すべきは、AWSのメッセージが時間の経過とともにいかに進歩してきたか、ということだ。Vogels氏が率いるAWSは以前、本物のクラウドと偽物のクラウドの違いについて語っていた。今では、AWSはハイブリッドクラウドの現実を認識しているが、いずれそのバランスがパブリックコンピューティングの方に傾くと確信しているようだ。
親会社のAmazonと同様、AWSも顧客第一主義を掲げている。新しい製品やサービスは必ず顧客に合わせた方法で宣伝しなければならない。Vogels氏は(顧客企業の)最高情報責任者(CIO)たちにいつも口やかましく言っている。それも彼の仕事である。CIOたちは、すべてをクラウドに、というビジョンを気に入っているかもしれないが、今持っているものをあっさり捨てるわけにもいかない。いくつかの機能はオンプレミスに留めておかなければならないこともある。
われわれはハイブリッドクラウドから技術的な負債、モビリティ、「OpenStack」、ビッグデータに至るまで、さまざまな話題について話した。その中でも印象に残った点をいくつか紹介しよう。
AWSのモビリティ強化について。Vogels氏は、クラウドとモビリティは否応なく密接に結びついている、と述べる。特にデバイスで消費されるコンテンツやデータの量が少なくなっているという。同氏は、「新しい企業ほどモバイルファーストの考えを採用している」と述べている。AWSの役割は(一元的なID管理や仮想ワークスペースを通して)開発プロセスから複雑さを排除し、革新と敏捷性を実現することだ。「われわれはCIOからフィードバックをもらっている。BYOD(職場での個人用デバイスの使用)は重要だが、CIOはデバイスの管理はしたくないと考えている。彼らが望んでいるのは、仮想化されたワークスペースと完全にプロビジョニングされた環境を管理することだ」(Vogels氏)
言い換えると、AWSは、モビリティを手がけるほかの企業が向かっている場所へ行こうとしている。モビリティの本質はデバイスというよりむしろコラボレーションとID管理である。デバイス管理は、ポーカーの賭け金のようなものだ。さらに、文書共有とコラボレーションの分野において、AWSは(GoogleやMicrosoftとともに)価格面でBoxやDropboxに圧力をかけ始めている、ということにも注目すべきである。
ハイブリッドデータセンター。Vogels氏は、「ハイブリッドはわれわれにとって重要だ。もちろん、AWSはパブリッククラウドだが、エンタープライズの世界では今後もオンプレミスに留まるものがある、というのが現実だ」と述べた。最も重要なのは、将来、ハイブリッドがどのように定義されるかという問題だ。オンプレミスが90%でパブリッククラウドが10%となるのか。その逆となるのか。あるいは、その中間となるのか。正解は3番だが、何が中間であるのかを定義するのは難しい。
Vogels氏は、News Corporationなどの企業がAWSを利用し、40カ所にあったデータセンターを統合して6カ所に減らしていること、そして、それが彼らにとってのハイブリッドの定義であることを指摘した。AWSが計画しているのは、仮想プライベートネットワークや直接接続、さらに、オンプレミスデータセンターに接続するためのID統合などのツール群を提供して、結果を見守ることだ。VMwareの管理統合機能を提供するというAWSの動きは、ハイブリッドの世界につながることを望むAWSの意向を如実に物語っている。(「AWS vs. VMware: Is a cloud collision inevitable?(AWS対VMware--クラウドの衝突は不可避なのか)」という記事を参照してほしい)