日本企業再生に向けた「オープン&クローズ戦略」--Hitachi Platform Solutions World 2014

齋藤公二 (インサイト) 2014年08月20日 08時00分

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経営革新と事業創造に向けてITは何ができるか

 日立製作所は7月29日、主催イベント「Hitachi Platform Solutions World 2014」を開催した。経営拡大や新規事業創出、業務効率化を支援するITプラットフォームソリューションをテーマに、多数のセッションと展示が行われた。基調講演の模様と、フレキシブルワークに関するセッションの模様を紹介する。


日立製作所 情報・通信システムグループ 情報・通信システム社 プラットフォーム部門COO 橋本崇弘氏

 開催にあたり、日立製作所 情報・通信システムグループ 情報・通信システム社 プラットフォーム部門最高執行責任者(COO)の橋本崇弘氏が挨拶に立った。ITとビジネスをめぐる今日の状況について、「経営革新と事業創造に向けたITの貢献の期待が高まっている。そのためには、ITプラットフォームをビジネス・イノベーションに貢献できるようにすること、高信頼、高性能のIT基盤を確立することが求められている」と説明した。

 その上で、日立では、グローバルで24時間365日のサービス提供、ビジネスに資するデータの活用、加速する変化に即応するという3つの取り組みを進めているとし、具体的なソリューションとして「データ活用」「クラウドサービス」「フレキシブルワーク」を提供していることを紹介した。


東京大学政策ビジョン研究センター シニアリサーチャー 小川紘一氏

 続く、基調講演には、東京大学政策ビジョン研究センター シニアリサーチャーの小川紘一氏が登壇。「オープン&クローズ戦略 日本企業のさらなる成長のための条件」と題し、日本企業が置かれた状況と課題、成長のためにとるべき戦略として「オープン&クローズ戦略」を解説した。

 オープン&クローズ戦略とは、日本企業の再成長のために、自社のコア領域を守りつつオープン化し、グローバル市場でのエコシステムを形成する知財マネジメントの考え方だ。

 小川氏が近著『オープン&クローズ戦略 日本企業再興の条件』で提案しているものだ。知財を公開し外部との組み合わせからイノベーションを起こすという「オープンイノベーション」だけに焦点を当てるのではなく、自社のコア領域を守る「クローズ」な観点と、その戦略のうえで、エコシステムを構築していくことの重要性を述べている。

 講演では、この戦略を踏まえながら、日本経済における製造業がかかえる深刻な課題、製造業のグローバリゼーションの状況、米国の知財政策、「アップルモデル」の真髄などを紹介して、2020年までの日本企業が採るべき戦略と方向性を提示した。


会場の様子

日本企業再生に向けた「オープン&クローズ戦略」

 まず、日本の製造業には、

  1. 円高による生産拠点の海外シフト
  2. 地域経済の崩壊
  3. 100年に一度とも言うべき産業構造の転換
 という3つの深刻な課題があるとする。円高による生産拠点の海外シフトはほぼすべての製造業で起こっている。特に2000年以降は、海外シフトにともなって、地方の若年層が都市部に流出して人口が激減。いまや全国の930ある町村の70%が消滅する可能性すらあると言われる状況だ。そして、グローバルレベルでは「第三次産業革命」というべき、大規模な産業構造の転換が起こっている。

 「18世紀後半の英国を中心とした第一次産業革命、19世紀後半のドイツと米国を中心とした第二次産業革命に続くもの。第一次産業革命の特徴は、"所有権・知財権の法体系整備による分業と特化"が起こったこと。また、第二次産業革命の特徴は、自然法則の組み合わせで製品イノベーションを起こすという"自然法則の産業化"が進んだこと。一方、20世紀後半からの第三次産業革命は、"人工的な論理体系(ソフトウェア)の産業化"が特徴だ」(同氏)

 これは、製品の機能、性能、品質、コストといった価値を決める主役がハードウェアからソフトウェアに変わったことを指す。コンピュータソフトウェアに知財権が認められたことを受け、製造業はソフトウェアリッチになった。例えば、EVなどのクルマの制御や自動運転はソフトウェア抜きにはできない。また、液晶パネルの技術よりも、画面拡大スクロール用のソフトウェアが生み出す付加価値のほうが高くなった。

 小川氏によると、「グローバルな企業間分業が大規模に進展し、技術は瞬時に国境を越えるようになった。ビジネスエコシステム型の産業構造が瞬時に出現し、競争ルールは突然変わる」(同氏)という。例えば、液晶パネルや電池、液晶テレビ、太陽電池、カーナビなど、技術イノベーションで巨大需要を創出したはずの日本企業が、大量普及のステージになると市場から撤退をよぎなくされるのは、競争ルールについていけないためだという。

 「巨額の費用を使って読みだす技術情報が国内にとどまらず瞬時に国境を超えて伝搬するのであれば、先進国ではそもそも製造業は成り立たない。だからこそ、技術伝搬を事業戦略としてコントロールする知財マネジメントの再構築が必要になる」(同氏)という。

 先行例となるのが、米国の知財政策だ。米国では1980年代から、技術漏えいをコントロールし、ICT産業、ソフトウェア産業の育成に努めた。そこから生まれてきたのが、オープン&クローズの知財マネージメント戦略だ。

 「オープン&クローズ戦略の真髄は3つ。1つは、企業と市場の境界を設計すること。2つめは、知財を自社(コア領域)へ集中させ、同時に、コアと他社技術をつなぐ境界領域へ集中させること。3つめは、コア領域から市場に向かう市場支配の仕組みを構築すること。これは新興国の成長を自社の成長に取り込むことだ」(同氏)

 分かりやすい例としては、AppleのiPhoneのケースがある。エコシステムを自社優位に事前に設計し、同時にグローバル市場へ伸びていく機会を形成、さらに、これを知財マネージメントで支えるという戦略になる。ポイントは、コア領域をクローズすることで、クロスライセンスの攻勢から守り、模倣企業を徹底的に排除したこと。

 これにより製品価格を長期にわたって維持した。さらに、知財マネジメントと契約マネジメントを使って、世界中の工場を自社専用工場にする仕組みを築いた。こうしたグローバルなビジネスエコシステムをコントロールすることを「伸びゆく手」と呼ぶという。

 「iPhoneのトータルビジネスコスト構造は、モノづくりから付加価値が消え、仕掛けづくりに付加価値が集中している。EMS企業の付加価値は店頭価格の2.5%に過ぎず、中間マージンの多くはアップルが独占できる。すべての出発点は、企業と市場の境界設計にある。伸びゆく手とこれを支える知財マネージメントが事前設計されている」

 小川氏によると、精密機械部品や材料といった、日本の強い領域でも競争ルールが変わる兆候が見られるという。先進国製造業としての日本企業の方向性も、これに沿ったものである必要がある。小川氏は、「多くの日本企業にとって、産業構造と競争ルールを事前設計するなど思いもよらなかった。しかし、21世紀は事前設計なくして、競争優位を構築できない。オープン&クローズの知財マネージメントを組織ノウハウとして育成していってほしい」と訴えた。

フレキシブルワーク実現に向けたソリューション


日立製作所 情報・通信システム社 ITプラットフォーム事業本部 プラットフォーム販売推進本部 ソリューションビジネス統括部 荒井達郎氏

 フレキシブルワークに関するセッションでは、日立製作所 情報・通信システム社 ITプラットフォーム事業本部 プラットフォーム販売推進本部 ソリューションビジネス統括部の荒井達郎氏が登壇。「働きかたの改革と企業の持続的成長に向けて ~デスクトップ仮想化の先に~ Hitachi unified client experience platform」と題し、日立がフレキシブルワークがどう取り組んできたか、それをもとに、どのようなデスクトップ仮想化ソリューションを提供しているかを解説した。

 日立が主張するフレキシブルワークとは、「いつでも、どこでも、いつまでも、チーム力で活動」できるようにする取り組みだ。具体的には、働く場所をフリーにする、時間の使い方をフリーにする、時間あたりの価値創出を最大化するといった取り組みからなっているという。

 もともと日立では、2004年からのシンクライアントシステムの導入に始まり、フリーアドレスの採用、ウェブ会議氏システムの採用など、ネットワークを介していつでもどこでも安全にITが利用できる環境の整備を進めてきた。

 「こうした取り組みの結果、顧客への訪問時間が増えたり、思いついたら即処理することで業務がスピードアップしたりといった効果があった。また、在宅勤務を実現したことで、自然災害発生時も業務継続できるといったメリットが得られた。ただ、期待しない効果も出てくることになった」(荒井氏)という。

 例えば、移動時間すらワークにあてるなど24時間働いてしまう「働きすぎ」の発生、時間を問わずメールできるため「上司からの依頼の増加」、いつでも会議できることによる「会議頻度の増加」などだ。そんな中、「時間当たりの価値最大化を意識する取り組みが組織や個人の意識レベルで必要になってきた」(荒井氏)という。

 そこで行ったのは「業務を前提としてリモートワークを行う」という発想から、「リモートワークを前提として業務を実行する」という発想への転換だ。長時間労働を生み出す会議とメールの利用を見直し、非同期チャットツール在籍管理システムといったITツールを活用できるようにした。クライアント端末は、シーンに応じてスマートデバイスを活用できるようにし、IT基盤としてもVDIで既存システムをどこでも使えるようにした。

 これは、クライアントデバイスと業務実行を分離するという考え方に基いたものだという。VDIについては、日立グループ9万人超が利用するインフラに拡大しており、システム運用や業務への適用にノウハウと実績を積み重ねている。

 こうした自社での課題対応やノウハウを含めて、フレキシブルワークを支える解決策として提供しているのが、日立クライアント統合ソリューション「Hitachi unified client experience platform」だとした。7月には、新たにテレワークマネジメント社と提携して、社内の意識や制度、各層におけるコミュニケーションのあり方をコンサルティングする「フレキシブルワークコンサルティング」をメニューに追加。

 また、VDIをはじめとする基盤製品やサービスを強化したほか、コミュニケーション活性化を促すアプリケーションなどを「フレキシブルワークソリューション」として提供を開始した。荒井氏は「フレキシブルワークを中心に、働き手のニーズに応じた多様な働き方の実現を支援していきたい」と強調した。


荒井氏の講演の様子

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