「iPhone」転売で知る中国人の転売の常識

山谷剛史 2014年09月24日 06時30分

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 「iPhone6」と「iPhone6 Plus」の発売日、多くの中国人が転売のために押し寄せた。それらはご存知のように日本の多くのメディアで報道され、どう贔屓目に見てもポジティブには見えない内容となった。

 異文化交流の練習問題として考えてほしいことがある。この中国人の行動が漠然とダメならば、何の行動が読者自身のコモンセンスに引っかかったのか。日本市場向けに販売される製品に対して「1.外国人が購入するのがダメなのか」「2.転売がダメなのか」「3.集団での組織的転売がダメなのか」「4.数十人分の待ち行列を1人で肩代わりして、結果割り込んだという行為がダメなのか」について問いただしてみた上で、その考えが行き過ぎではないか、ないしはその逆なのかを考えてみることをお勧めする。

 「バスの窓の外に顔や手を出してゴミを捨てるな」から「地下鉄駅ではタバコを吸うな」まで、中国の街では10年以上新しい注意書きが登場している。数年単位で見れば、こう見えて若い世代でモラル向上はある。中国では転売を「倒売」、転売屋を「黄牛」と言い、後者はあまりよくは思われていない。それなのに中国人的な思考でいえば、実は今回の海外でのiPhone購入と本国への転売は、モラル的にOKだ。

 これはいったいどういうことだろうか。いくつか例を出そう。

 鉄道の切符の転売、これはNGだ。一斉に帰郷する春節(旧正月)シーズンには鉄道の切符入手は困難となる。この困難に拍車をかけるのが転売屋の存在だ。転売屋でも依頼を受けて代理で切符を買いに行き手数料をもらうのもいるが、多数の切符を確保して高値で売りさばく転売屋もいる。転売屋でも後者は逮捕者が出ている。またオリンピックをはじめとしたスポーツ観戦チケットや、コンサートチケットの転売でも転売屋(ダフ屋)が逮捕されたことがある。

 逮捕者が出た転売といえば、福島第一原発事故の後に、海水が汚染されるという噂が飛び交い、沿岸部の市民による塩の買いだめが起きた。後日噂は浙江省の転売屋がSNSで流して仕掛けた錬金術だということが分析で判明した。政府が価格を調整するものについてもまたNGである。

 ただ多くの商品に関して、転売してはダメだと思われていない。まず日本向けiPhoneの中国への転売について、まず「日本向け商品の中国への転売」から考える。多くの日本に住み始めた中国人が、儲けるべく続々と「淘宝網(Taobao)」に出店し、日本の商品の転売をはじめていることから、転売はむしろ「やって当然」。淘宝網でショップを出している知人の日本在住の中国人は「日本で売ってるものならなんでも転売する。競争は激しい中で、ショップの評価をあげるために薄利で販売する」と語る。

 次に「iPhoneの転売」について考えよう。近年台頭したスマートフォンメーカー「小米(Xiaomi)」の新製品は、当初はネット限定販売だった。ネット限定販売時には中国中の携帯電話ショップも購入し、店頭やオンラインショップでマージンを上乗せして販売している。これもまた転売だ。現在も意欲的な製品を出す中小メーカーが、小米販売方式を採用している。

 商品を転売することはなんでもいいのかというと、人によっては、「限定品を買い占めることはNG」だという。だが今回のiPhoneの件について、限定品買占めをNGとした人でも、「iPhoneはショップを探せば入手できるし、時間が経過すれば入手できるから、限定品ではなく問題なし」だという。その論理なので「福袋も売ってはいるのでOK」だという。つまり美味しい商材を買って横流しすること自体は問題ないのだ。

 転売で逮捕者が出たと書いたが、転売に関する法律もある。「治安管理処罰法」の第52条に、「鉄道、船、航空券などの切符やイベントのチケットの転売は、5~15日の拘留かつ1000元以下の罰金」と定められている。が、iPhone発売初日の本国への転売は、税関での手続きさえ行えば違法行為でも脱法行為でもないのだ。

 こうした背景から、中国メディアは、世界で中国人の転売屋が逮捕されたことについて、「また黄牛が…」と彼らの現地でのモラルを嘆く声こそ出ているが、世界各国から中国への転売行為自体を嘆く声はない。かつて「PlayStation 3」や「Wii」の発売日に日本の家電量販店に中国人転売屋が集結し、日本で話題になった時には、IT系雑誌の冒頭の編集長の一言欄で「転売の何がいけないのか」と書かれていたことも。そうした言論も近日中に中国メディアから登場するかもしれない。

山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター
2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。

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