もちろん、Appleが近い将来に、よりサイズが大きく、多くのメモリを搭載し、しかもペンが使えるiPadを発売する可能性は否定しない。
しかし、これまでの歴史を見れば、Appleは大企業や垂直統合市場との直接的な取引を行う企業ではない。常に、その種の仕事を得意とするシステムインテグレーターやパートナー企業を経由してきた。なにより、Appleは小売り販売モデルを好み、代理店による販売はあまり好まない。
幸い、同社はITサービスとシステムインテグレーションで世界最大の企業の1つであるIBMと、企業を相手に営業をかけ、そのニーズを満たすためのパートナーシップを結んだ。しかし成功するには、AppleとIBMは企業が買いたいと思うものを提供しなくてはならない。
現在、AppleはDNAのレベルでの問題を抱えている。iPadにはモデルが2つしかなく、垂直統合市場向けのカスタマイズの余地がほとんどない。Appleの製品はそもそも、AppleとIBMのパートナーシップがターゲットとしている、企業や垂直統合市場(ヘルスケア、金融サービス、通信、運輸)で使われているたぐいのモバイルアプリケーションを扱うように設計されていない。
筆者は何年も前から、ビジネス市場のシェアを拡大するため、Appleが自社OSのライセンスを主要なOEM企業に供与することを提案してきた。もちろん、この提案に対する答えは、これまでは常に、「Appleは企業のことを気にしない。一般消費者から大きな収益を上げる」というものだった。また別の問題は、サポートが貧弱で質の低い製品が出て、Macの顧客層を弱めてしまう懸念があることと、OSのライセンシングから得られる金銭的利益がほとんどないことだ。
しかし2008年と2014年では状況が異なる。iOSデバイスは、検証する必要のあるコンポーネントが山のようにあるPCとは違う。そして、Tim Cook氏はSteve Jobs氏とは違う。
Appleの「App Store」は、iOSとMac OS Xのプラットフォームで、iTunesやその他のダウンロードコンテンツを合わせて同社の収益の約11%を稼ぎ出している。Appleはこの数字をさらに大きくしたいだろうし、企業向けアプリや垂直統合市場向けアプリが加わった場合はなおさらだろう。
App Storeで大量のビジネスアプリが流通するようになれば、何らかの登録制のクラウドサービスと組み合わせられ、無料ダウンロードやMDM経由によるサイドローディングが可能なものも多く出回るだろうが、ストアでも購入可能なサービスも多く出回り、Appleも分け前を得ることができるだろう。
App Storeでのビジネスソフトウェアの売り上げを増やそうとするのであれば、iOSのライセンスを供与する方が理に適っている。
確かに、IBMが企業に販売するいわゆる「iPad Pro」からでもそれなりの収益を上げられるだろうが、Lenovoなどのエンタープライズ市場の大手企業や、Zebra Technologies(同社はMotorola Enterprise SolutionsやSymbol Technologiesも買収している)などの垂直統合市場の企業が、ライセンスを受けてiOSベースのタブレットを製造、販売すれば、収益はずっと大きくなるはずだ。
Appleが懸念するのは、Androidが消費者市場で経験しているような、OSのフラグメンテーションや、未パッチの脆弱性、OEM企業やキャリアによる問題の多いカスタマイズなどがiOSでも発生することだろう。
しかし、ここで話題にしているのはエンタープライズ市場であり、このことは大きな問題とはならないはずだ。なぜなら、ライセンスを受ける企業の数は限られており、顧客企業は使用しているシステムに最新のiOSが提供されると信頼できるだろうからだ。
もちろん、これらの話のほとんどは、あり得ないと一笑に付されるたぐいのことだろう。ただ、忘れてはならないのは、Appleはエンタープライズ市場攻略のためにIBMと協力関係を結んだということだ。Steve Jobs氏が率いていたAppleでは、これは事実上考えられないことだった。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。