1996年創立のワークスアプリケーションズは、大企業向けの統合基幹業務システム(ERP)パッケージ「COMPANY」シリーズを開発、提供する。国産パッケージのCOMPANYは伊藤忠商事や三菱マテリアル、王子ホールディングス、古河電工、キングジムなどに導入されており、これまでの導入企業は1000社以上。人事給与システム分野では11年連続トップシェアを獲得している。そのワークスは、2014年10月にSaaS型ERP「HUE(ヒュー)」を発表、2015年内の提供開始を予定している。
代表取締役最高経営責任者(CEO)の牧野正幸氏は、HUEについてERPパッケージをSaaS対応にしたものではなく、「ゼロから作り直している」と説明。“SaaS型ERP”や“クラウドERP”ではなく、“クラウドネイティブ”なエンタープライズアプリケーションという言葉でHUEの立ち位置を表現している。
ERPの存在意義
パッケージかスクラッチかは別にして、ERP自体は業務を回すのに欠かすことができないシステムだ。それだけにERPを新たに導入する企業は少なく、日本国内のERP市場はA社からB社にパッケージを切り替える、ゼロサムゲームの様相を呈していると表現できる。ERPパッケージは成熟した市場とも言える。
ERPパッケージといえば、かつては「導入することでビジネスプロセスを改善できる」「導入すればグローバル市場で戦うことができる」といったフレーズで売り込まれていた。日本企業の経営層に意識されるようになった、このフレーズはそれなりに的を射たものだったと言える。
だが、企業ITでのERPの存在意義は、この数年で大きく変わってきている。ERPは業務を回すのに不可欠であることは以前と変わらない。しかし、日本を代表する製造業の経営層が言うように「ERPを変えたところで売り上げは大きく伸びるものではない」ということが意識されるようにもなっている。つまり「ERPへの期待値は大幅に低くなった」
ワークスアプリケーションズ 代表取締役 CEO 牧野正幸氏
1996年のワークス創立以前、コンピューターメーカーに勤務していた牧野氏は今から25年以上前、ERPパッケージを日本市場に導入すべきかどうかを調査していた。米ERPパッケージベンダー2社の経営層への調査では、ERPパッケージのメリットは「メンテナンスにかかるコストを下げられる。システムコストを下げられる」ことが強調されていたという。
「その時点で(ERPパッケージベンダーには)グローバルスタンダードやBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)という意識はなかった」
牧野氏によれば、当時の日本は市場規模が小さいために、ERPパッケージベンダーが日本企業独得の業務に対応する機能を取り込む余地はなかったという。この時、牧野氏が所属していた企業はERPパッケージの日本市場への投入を断念した。
それから数年後、牧野氏たちが検討していたERPパッケージは、別ルートで日本市場に参入。「(このシステムがあれば)グローバルスタンダードとなって世界と戦える。業務を改善できる」といったことをうたい文句としていた。
そして1996年、ワークスが創立される。ワークスが開発、提供するCOMPANYでは「業務の網羅性を上げて、カスタマイズしなくていい」ことを目指した。導入コストやメンテナンスコストを下げることができるからだ。
ERPで顕著になることだが、パッケージソフトでは提供する機能とユーザー企業の実際の業務にどれだけ適合するのかが重要なポイントになる。業務をパッケージにあわせるのか、パッケージを業務にあわせるのか。
パッケージを業務にあわせるという選択肢をとった場合、パッケージにない機能をサブシステムとして構築するというやり方であれば、総所有コスト(TCO)という観点からは効率がいい。パッケージの内部をカスタマイズしてしまうと、後々の問題を抱えることになりやすい。パッケージのバージョンアップでコストが割高になってしまうからだ。そうした戦略からか、ワークスの「コスト削減が目的」というユーザー企業は「解約率が1.0~1.5%」という。
「ワークスに乗り換える企業は年間100社ぐらい。ERPの維持はカネがかかりすぎる。ERPに対する期待値はかなり低い」