インターネットの広告配信ビジネスは、配信された広告をどれだけの読者が閲覧したか、またどれだけの読者がクリックしたか、といった情報を把握できる点が他の広告媒体にない大きな強みとなっている。
こういった情報は、広告主や広告代理店に読者の反応をフィードバックできるというだけでなく、広告の閲覧状況など成果に応じた料金体系が設定されるため、配信業者にとって収益に直結する重要なデータでもある。
この広告配信ログの分析や保管を、オンプレミスでなくクラウドサービス上のビッグデータ分析基盤で実施している企業がある。利用しているシステムは、Amazon Web Services(AWS)のデータウェアハウス「Amazon Redshift」だ。
動画広告を配信するアドネットワーク
システムを導入したアップベイダーは2013年12月設立、2014年1月に事業を開始したスタートアップ企業で、スマートフォン向け動画アドネットワーク「AppVador」を手掛けている。アドネットワークは、確保した広告枠を管理し、代理店や他のアドネットワークに販売、配信した媒体に料金を支払い、差額を収益とする事業だ。
数あるアドネットワークの中で同社が強みとしているのが、スマートフォン向け動画広告を扱っていること。日本では珍しいという。動画広告の配信先となる媒体はスマートフォンのアプリとスマートフォン向けサイト。アプリには同社が提供するSDKを組み込むことで、配信を実現し、スマートフォン向けサイトにはJavascriptで対応する。
この動画アドネットワークの構築に際しては、配信するアドサーバに関する技術的挑戦はもちろんだが、配信結果のデータ量の多さというビジネス上の課題があった。このデータは事業の拡大に比例して増大するものだが、動画広告ではとりわけ量が多い。
最高経営責任者(CEO)で、最高技術責任者(CTO)の佐野宏英氏は「広告配信ログのデータサイズは、静止画広告に比べて動画では数倍から10倍くらいになります。実際に再生された時間や、そのときの音声ON/OFF状態など、さまざまなデータが加わるためです。ソーシャルゲーム大手などには遠く及ばないものの、今では月間10億インプレッションにもおよび、秒間1000単位のリクエストが発生することもあります。分析の処理量は広告枠と案件の掛け算で増えていくので、自社でログを分析していたころは、頻繁にシステムが止まることがありました」と説明する。
前述の通り、アドネットワーク事業者にとって広告配信結果は収益に直結する重要なデータだ。しかし、そのデータの管理や分析は、いわばバックエンドに相当する部分。アップベイダーの強みはスマートフォン向け動画広告配信技術にあり、フロントエンドであるアドサーバにこそ注力したいのが本音だ。配信ログの管理や分析にまつわる負担はできるだけ軽減したいものだった。
「もともとアドテクが分かる技術者は業界内でも少数で、非常に貴重な人材です。加えて当社は少人数のスタートアップですから、簡単には技術者の数を増やせません。そのため、バックエンドとなる分析基盤に人手やコストを割く余裕はないと考えたのです」(佐野氏)