今回は、クラウド環境の導入検討時や利用時に考慮すべき「リスク」の詳細について整理を進める。
前回までの説明において、クラウド固有のシステム環境やサービス特性が、ユーザーに対してメリットとともにリスクをもたらしている点を説明した。
本稿では、クラウド環境における特徴的なリスクを中心に紹介する。ただし、今回紹介するリスクは、市場に出回る全てのクラウドサービスに関係の深いリスクばかりではない。
しかしながら、ユーザーにおけるリスク管理活動では想定されるリスクに「関係がある」ことのみならず、「関係がない」ことを確認することも、ステークホルダーの安心材料となる。また、採用するサービスやベンダーにより都度その関係の有無は変化するため、目の前のリスクにとらわれず、高い目線で参考になれば幸いである。
なお、本稿におけるクラウドはパブリッククラウドを対象とする。また、本稿は執筆者の私見である。
パブリッククラウド環境の特性が招くリスクを整理すると以下の4つに分類できる。
- 法令 データの保管場所や係争時の所管裁判所などに関するリスク
- 採用技術 ベンダーによる技術的なセキュリティ設計に関するリスク
- サービス運用 可用性やインシデント対応などの運用業務に関するリスク
- ガバナンス 統制ルールの十分性や実効性に関するリスク
以降にて、これらリスクの詳細について整理を進める。
法令に関するリスク
法令に関するリスクは、クラウド環境上のデータが海外で保管されることにより、保管された国や地域の現地法令への遵守が求められることが招くリスクである。
また、外資系クラウドベンダーの一部は、契約書にて係争時の所管裁判所を海外(ベンダー本社設置地域の裁判所など)と規定している例もあり、係争発生時の対応が困難となるリスクもある。
これらのリスクは、パブリッククラウドサービスを提供している企業のグローバル化により、新たなリスクとして注視されている。
法令に関して、多くのユーザーの関心が高いリスクとして、プライバシー法制度の違いに関するリスクが挙げられる。プライバシー情報の取扱い制度は、国や地域で異なっている。
例えば、EUデータ保護指令では、十分なデータ保護レベルを確保していない第三国へのデータの移転を禁止している。日本や米国もEUの基準に則していないという判断がなされている。
一方、米国の一部企業は欧州の個人情報保護の環境整備に関する公正な情報原則である「セーフハーバー原則」を遵守すると宣言する米国企業に対しデータ保護のレベルを確保したとする「セーフハーバー協定」により制約の適用を除外する措置を受けている例がある。