頑張ってやるものじゃない--一橋大学 楠木教授が語る「イノベーションの本質」

大河原克行

2015-10-16 07:30

 サイボウズは10月15日、PaaS「kintone」ユーザーを対象にしたイベント「kintone hive」を東京・日本橋のベルサール東京日本橋で開催した。2回目となる同イベントでは、最新のkintone活用事例の紹介ともに、kintoneデベロッパーによるkintoneの機能とAPIを最大限に活用した業務フローの効率化や改善のための実践的情報を提供。「kintone AWARD 2015」の授賞式も行われた。

 hiveという言葉には、ミツバチの巣、活気のある場所という意味があり、kintone hiveにはアイデアが発生し、それを交換する場にするとの狙いを込めたという。

「俺のウォークマンは松下だぜ!」

 基調講演では、kintone AWARDの審査委員も務めた一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授の楠木建氏が登壇し、「イノベーションの本質」と題して講演した。楠木氏は最初に「何がイノベーションなのか」とし、スーパーコンピュータ「京」、Appleの「iPhone 6s」、「iPS細胞」といったいくつかの写真を見せながら、会場に問いかけた。

 世界初の量産電気自動車やIPS細胞については、8割以上の人が「イノベーションである」として手を挙げたが、楠木氏は「ここに挙げたものはすべてイノベーションではない」と断言した。

 「多くの人の認識が、イノベーションとは新しくて良いものだと理解している。ここに挙げたものはすべてプログレス(進化)である。iPS細胞は、進化ではないが、インベンション(発見)でしかない。iPS細胞は、応用が進むことによってイノベーションになる」と位置付けた。

 「イノベーションの本質は非連続性である。18世紀の英国には、イノベーションという言葉がない。Joseph Schumpeterが初めてイノベーションという言葉を使い、これを生産要素(資源)の新結合と表現した。もう少しわかりやすく、Peter Druckerの言葉を用いれば、イノベーションとは、パフォーマンスの次元が変わることになる。進歩では説明できないものがイノベーションになる。イノベーションなのか進歩なのかを判断するのに、程度の大小は関係ない。程度が大きくても、『すごい進歩』としか言えないものも多く、程度は小さくてもイノベーションと言えるものもある」

 進歩というのは、初期の段階では有効であり、電気自動車の走行距離が伸びれば需要が向上するといったことなどが期待される。だが、進歩だけでは技術的な限界が訪れ、コモディティ化する。電波時計によってこれ以上正確な時間を刻むことができなくなったのが一例。そして、それが進むと認知的な限界を超えることになる。人がそれ以上のものを求めなくなり、コモディティ化が始まる。2万曲が入るデジタルオーディオプレーヤーがそれに当てはまるとした。

 デジタルカメラの登場は、フィルムがデジタル化したことで、非日常の記憶のためでなく、日常の記録のために使う用途が中心になったことに触れながら、「カシオのデジカメであるEXILIMは、日常を記録するためにポケットに入るサイズにしたことがイノベーションである。そして、カシオが中国市場向けに発売し、大ヒットした自撮り専用デジカメのEX-TRシリーズも価値の連続で非連続を実現した製品である」と楠木氏は説明してみせた。

 もうひとつ、イノベーションの事例として挙げたのが刈取機だ。だが、ここではその考察に一捻りある。

 「刈取機そのものは技術進歩である」とし、「ここでイノベーションを実現したのは、刈取機の技術特許を取ったHiram Mooreではなく、分割払いという特許を取ったCyrus McCormickであった」とした。

 刈取機がないと、収穫ができず、売るものがなく、刈取機が買えないというスパイラルから発生。そこから脱却するための仕組みが分割払いだという。

 「先に刈取機を使ってもらい、後から少しずつ払ってもらうのが最初の分割払いの狙い。それまでにも、銀行から資金を借り入れるという仕組みがあったが、分割払いが広まったことで、今ではハンドバックや携帯電話も購入しやすくなった。ハンドバックを購入するのに借金してまで購入する人は少ないし、ましてや銀行も貸してくれない。だが、分割払いならばそれが可能になる。大衆消費社会を作り上げたイノベーションである」

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