SAPは10月22~23日に、シンガポールで「SAP Asia Pacific Media Summit」を開催した。このイベントは2014年に引き続いて開催される、オーストラリアなどのオセアニア、インド、タイ、インドネシアとアジアパシフィック地域と日本(APJ)のメディアに向けたイベントであり、アジア地域でのSAPのビジネス展開や戦略を説明した。

APJ担当President Adaire Fox-Martin氏
「2020年にはアジアパシフィック地域の17億5000万人が、中産階級に入るという予測がある。この人数の規模はEUに匹敵するほどだ」--APJ担当プレジデントであるAdaire Fox-Martin氏はアジアパシフィック地域の成長の期待をこのように表現する。こうした経済成長を支えるのはビジネスや、産業のデジタル化であるとAdaire氏は指摘する。
一方、こうしたデジタルエコノミーを使ったビジネスの変革が重要であると90%以上の最高経営者(CEO)が感じていながらも、具体的な計画をもっているのは25%、計画に取り組んでいるのは15%にすぎないというデータを示した。このような数値のギャップは企業が収集するデータが増大し、システムやビジネスプロセス、取得するべきデータなどの運用が複雑化しているためと説明した。
「“複雑性”によるビジネスの損失はトップ200のグローバルカンパニーでは年間利益の10%程度に相当するほど」とも指摘。複雑性をシンプル化した後に、デジタル化を推進することがデジタル化のカギを握ると強調した。

SAPが掲げるテーマは「Run Sinple」
HANAがシンプル化に寄与
こうした顧客のシステムやビジネス運用のシンプル化をSAPはインメモリデータベース「HANA」や、HANA上で動作するアプリケーション群「S4/HANA」の推進により実現しているという。
インメモリデータベースのHANAは、データウェアハウスなどの情報系処理だけでなく、勘定系や統合基幹業務システム(ERP)などにおけるオンライントランザクションも含めて、1つの基盤で処理できる。これにより、売り上げデータやセンサデータの分析、需要予測など、さまざまな情報を1つのシンプルな処理基盤で、高速に運用できるのが特徴だ。
Adaire Fox-Martin氏は、HANAの活用により、最高財務責任者(CFO)と会社の売り上げやビジネス状況を話し合う際に、たとえどんな時間帯でもリアルタイムの実データを用いることができるとアピール。過去の売り上げではなく、実際の数字をもとにして意志決定ができる環境を構築することの意義を強調した。
HANAをはじめとしたサービス群は、アジアを含め、世界中の顧客に好評とSAPが強調することを裏付けるのか、S4/HANAは8カ月で1300社ものユーザーを獲得したという。HANAをPaaS上で提供するサービス「HANA Enterprise Cloud」を含むクラウド関連サービスで、前年比88%増という成長を遂げたとした。具体的な日本の顧客としてはインテリア商社のSANGETSUが、S4/HANAにより需要予測を強化し、経費管理のSaaS「Concer」も採用した。
Adaire氏はアジアの顧客のデジタル化にSAPが寄与し、成長を続けるために、アジアに集まっている若い世代に注目しているという。これは、デジタルネイティブの彼らがデジタル経済の要になると予測しているためだ。
デジタル経済の伸長を促すとともにCSRの一環として、オーストラリアにおけるITを利用した教育をサポート、若者たちのデジタルリテラシー向上に取り組んでいる。さらに、データアナリティクスのコンペティション、シンガポールでは高校生たちのアプリケーション開発大会である「YOUNG THINKERS’ CHALLENGE」などをサポートし、未来への投資にも注力。アジアの顧客とともに成長を続けると強調した。