少し前に日本在住のアメリカ人の知り合いと話していて、「来週USの大学で日本のブランドについて話すのだよ」と聞きました。その中で「日本には差別化(Differentiation)があまりない」と言うつもりだと。「差別化がないってどういうこと?」って思いますよね。“差別化”について、私はこれまでの仕事を通じて幸いにも習うことができましたが、一般には分かっていそうで分かっていない言葉の1つです。今回は、そのことを共有します。ITの製品作りや、マーケティングに役立つと思います。
なぜ人が製品やサービスを買ってくれるかというと、天秤にかけ、その製品が提供する「約束の価値」が、取得や維持するコストとリスクの合計より大きいからです。この天秤での比較は、金銭的な評価もあるでしょうが、心の中で評価されることが多いと思います。では、ここでいう約束とは何でしょうか?

よくブランドの例え話として「電気ドリルを買うのは、電気ドリルが欲しいためではなく、求めるサイズの穴を簡単にあけるためである」を使います。錐でも穴はあけられますが、電気ドリルの約束は、力を入れずに、欲しいサイズの穴を正確に、しかもいくつでも、あけることができることです。他の例を。自動車の約束は、ドライブを通して余暇を楽しむこと環境を提供したり、目的地にある程度正確に行くことだったりします。女性が買う宝石の約束は、身につけることで気分をハッピーにすることかもしれません。
でも、自社の製品が約束を果たしているだけでは、簡単に人に買われません。競合する他社の製品と比較されるかもしれません。既存に何か同じ種類の製品持っているかもしれません。代替製品があるかもしれません。ですから、約束の価値には、差別化というが大事になります。
機能自慢だけでは差別化にならない
差別化とは、その約束が果たす代表的な使いかた(シナリオ)において、対象とするオーディエンス(どんな人たち)に対して、想定する競争相手との違いを明確にすることです。ある意味、敵に打ち勝つことです。そして、違いとは、オーディエンス内での相対的な差です。その差が大きければ大きいほど、バトルには有利になります。
自動車の例でいうと、ドライブを楽しむというシナリオで、他社よりどう楽しい運転ができるかを明確にすることが差別化のポイントです。私は古いタイプのスポーツカーが好きで、高回転までよどみなく回るエンジンが購入するポイント(差別化)です。
ここで注意が必要なのは、製品提供側が「これはすごいぜ!」と差別化のポイントを並べ立てるだけでは、ただの機能自慢になってしまうことです。それだけでオーディエンスに伝われば苦労はありません。
もう1つ重要なポイントは、相対的な差を「証明する」ことです。証明の方法には、(1)第三者の調査結果で証明する、(2)実際に測定して認定をうける、(3)外部の有識者がエンドースする――などがあります。できるだけ公平な数字で証明することがよいです。ここまで出来て、初めて差別化になります。天秤にかけられた約束の価値に、差別化と差別化の証明の重しをつけて、コストとリスクよりさらに重くするのです。
ブランドが差別化されているかどうか知る方法
ブランドが差別化されているかどうか、実は簡単に分かります。差別化されている場合は、製品などが説明されている文書の主語をマスクして、その文書を読んで主語がすぐに想起できます。
ここでは、ウェブサイトなどに書かれている典型的な会社紹介について見てみましょう。
- わたしたちは、顧客がITを利用してひらめきからバリューを生み出す時間を減らし、市場、生活、業界に変化をもたらすことをお手伝いします。これまで通りのITを使う方もいますが、 多くはクラウドに対応した安全でモバイル対応した環境を採用しています。両方を組み合わせるケースもあります。変化のどの過程でも、われわれは顧客を成功に導く技術とサービスを提供します。
- われわれは、世界の多くの国やローカル市場において、そこで暮らす人が技術によって夢を現実のものにできるよう支援してまいりました。顧客の信頼に応じ、職場、学校、自宅など さまざまな場所で目標に到達し、さらなる飛躍を可能にする解決策を今後も提供します。
上記の記述から、企業を特定することができましたか。差別化できていると感じるでしょうか。

米国のソフトウェア作りでは、ここで述べた差別化の考え方が、ポジショニングフレームワークとして徹底されているケースが多いです。対象のオーディエンスを想定して、競合との差別化を意識し、勝つため=買っていただくための製品を開発します。この開発段階からのフレームワークが、製品完成後のプロモーションに使うマーケティングメッセージの基本になります。修飾語などをつけて、外部の人がうっとりする文章にしますが、根本に流れる約束と差別化は変わっていません。そして、そこからキャッチコピーが生れます。製品が完成してからメッセージを一から作るのではないのです。
あなたの会社や製品は差別化されていますか?ぜひテストしてみてください。