米AppDynamicsはアプリケーション性能管理(APM)ツールを展開する企業。同社のAPMはサーバ間で通信しているパケットにビーコンを入れて追跡するため、アプリケーションからネットワーク、サーバまでのシステム構成図を一枚の画面に自動描写できる。
これにより、一連のトランザクションを可視化した上で一元監視でき、不具合の発生場所がすぐにわかるほか、予兆を管理して障害を防ぐ。情報報えいなどのトラブル時には、原因となった場所をすぐに把握できる。
こうした新時代のAPMにより、2008年の創業から順調に業績を伸ばしており、従業員850人の企業に成長した。TeslaやAmazon Web Services(AWS)、日本でもソニーなど、導入企業を順調に増やしている。
創業者のJyoti Bansal氏は最高技術責任者(CTO)として開発に専念し、最高経営責任者(CEO)としてDavid Wadhwani氏が就任しその舵取りが注目されている。新CEOに抜擢されたWadhwani氏に今後の展開を聞いた。
――CEOに抜擢された理由の1つであるAdobeでの功績について、何を達成したのか。
6年前からAdobeでデジタルメディアビジネスを担当し、35億ドル規模だったビジネスを、SaaSモデルによって80億ドルにまで成長、ビジネスモデルのデジタル化を担った。

最高経営責任者(CEO) David Wadhwani氏
PhotoshopやIllustratorは、店頭で販売するような高価な箱入りのデザインソフトウェアだった。この領域は、対象となる顧客層が固定的であり、新版への買い替え需要に依存していたことで販売の伸びも低成長に陥っていた。そこで、SaaSモデルのデザインソフト「CreativeCloud」への転換を図ったところ、従来の顧客層に加えて新規の顧客を大量に獲得することができた。その結果、今では600万人を超える有償ユーザーを数え、30億ドル以上の年間購読料を売り上げることができた。この変革に要したのは3年半だ。
私が確信したのは、製品自体の魅力はもちろんだが、それをどう伝えるかがさらに重要ということだった。AppDynamicsは、デジタルビジネスへの変革を遂げようとしている顧客を支援し、それが円滑に成長することをアプリケーションの面から支えている。私は、Adobeでの経験が生かせると確信している。
――なぜAdobeから移ろうと思ったのか。
第一に、私自身の経験から、デジタルビジネスへの転換は特定の会社に限らず、全業界、全世界的なテーマであると感じている。第二に、それを推進し、支援するのにAppDynamicsが提供している製品やサービスが顧客に役立つと考えたからだ。そして第三にAppDynamicsは次世代の重要なソフトウェア会社となる可能性を秘めていると確信したからだ。
――ではどのように成長させるのか。
着任してから3カ月の間で感じたことがいくつかある。まず、潜在的な市場の成長性が非常に大きいということ。APMは伝統的なカテゴリではあるが、これを必要とする顧客が爆発的に増えている。先ほど述べたように、あらゆる企業がデジタルビジネスへの変革を試みているからである。
そして、提案する顧客層が変化してきている。これまでお会いする方は、システム運用を担うIT部門が中心であったが、このところ最高情報責任者(CIO)、あるいはCEOと話す機会が増えてきている。つまり、IT部門の枠を超えて、ビジネス部門がこの製品を必要としているということだ。
さらに、これまでの関係性から顧客はわれわれをベンダーではなくパートナーとして見てくれている。これらを基にして、私は顧客に届けるものの「価値」を定め、事業を推進し、成長をさせていくことに決めた。ただ、これまで充分にできていなかったことがあるとしたら、有力企業への導入成功事例が、まだまだ市場に知られていないということだ。私はそれを積極的に発信していきたいと考えている。
APM市場は、ソフトウェアの中では小規模な領域ではあるが、それはこれまでの製品がアプリケーションのみを監視するといったことに特化していたからだ。AppDynamicsは、モバイル、ブラウザからウェブサーバ、アプリケーション、データベース、マシン、そして将来的にはネットワークまでを単一のダッシュボードで監視し、性能劣化や障害の根本原因を迅速に突き止めることができる。
それによって、APMというニッチな市場から、デジタルビジネス遂行に必須の製品へと位置づけが変わることで、より大きな成長性を持つと考えている。既に製品は、単なるアプリケーションの性能管理を超えてシステムのエンドtoエンドの情報を網羅し、かつトランザクションデータも収集分析できるところまで進化してきている。
今後の開発予定としては、ビッグデータを容易に扱える基盤へとアーキテクチャを変更し、さらにアプリケーション分析機能を強化して、収集したデータから多くの知見を得られるようにする予定だ。
APM市場の枠を超えて、アプリケーション利用データを分析して知見を得る「アプリケーションインテリジェンス」という市場を創造できるのだと信じている。