クラウドで切り拓け〝超ローカル新聞〟の未来--岩手・東海新報 - (page 2)

構成・取材 怒賀新也(編集部)

2016-01-03 07:30

2013年にプロジェクト立ち上げ

(NCRI/熊谷恵津子)

 「世の中のあらゆるものが、クラウドによって動き始めている」

 弊社オーナーである津田邦和はそう語り、20年ほど前からクラウドによるさまざまなビジネスモデルシフトを提言していました。その1つにあったのが、新聞・放送といったマスメディアです。

 ネットで多くの情報が得られるようになった現代、マスコミは今の価値のままでは生き残れないことは間違いありません。クラウドには「インフラやサービスを共有することで、高品質な技術を低コストで使える」というメリットがあります。こうした特性を活用できないかと、弊社は以前からメディアと共にクラウド展開へ向けた研究会を行っていたそうです。

 そんな折に発生したのが、東日本大震災でした。

 そもそも、私がNCRIに来るきっかけは震災でした。関東に暮らす私は、被災地支援の方法を模索する中でFacebookを使い始めたのですが、そこで社長の津田と出会い、またSNSの情報拡散力や機動力の高さを実感しました。そして「クラウドで企業と地域の復興をお手伝いできるのでは」と考えるようになったのです。

 東海新報社とわれわれを結びつけてくれたのも、言うなればクラウドでした。FacebookでつながったITソフト開発会社RAPiC(宮城県仙台市)の水沼正樹社長が、東海新報社の存在を教えてくれたのです。

震災翌日に発行した号外。社長の鈴木氏が以前から震災に備え、災害用電源を導入してきた成果だったという
震災翌日に発行した号外。大きな被害を受けた大船渡市は停電していた。社長の鈴木氏が以前から震災に備え、災害用電源を導入してきた成果だったという

 仙台のオフィスで東海新報のHPを見せてもらい、震災当日から号外新聞を刷っていた、すごい会社であることを知りました。「ここを応援したい」と強く思ったことは今でも忘れられません。

 こうして2013年にHLNプロジェクトを立ち上げ、同紙の電子化をお手伝いすることに。システム開発に協力してくれる企業を探し、マルマンコンピューターサービスの長内社長、担当の宮本真弓さんに出会えたのは2014年のことでした。

地域の魅力、世界に発信可能

 本プロジェクトは単に「電子新聞をつくる」ためのものではありません。電子版の有用な点として、▽いつでもどこでも閲覧できる▽画像や動画を記事に追加できる▽それによる新企画やコンテンツを提供できる──などが挙げられます。

NCRI/熊谷恵津子氏
NCRI/熊谷恵津子氏

 また、配達エリア外の地域や国外への情報発信も可能となり、人の目に触れる機会を増やせます。そうなれば県外のファンを獲得したり、大船渡や陸前高田を知らない人に地域をアピールするツールともなります。東京オリンピックに向けて英語版もリリースできれば、この地方へ集客を図ることも夢ではありません。

 さらにSNSで記事を「シェア」することで、紙とは比べものにならないスピードで情報を拡散できます。震災直後、支援ツールとしてFacebookを使っていた中で、この〝スピード感〟は自分自身が強く実感した部分でもありました。

 私も岩手へ通い詰めるうちに、東京では感じることのできない「地域の持つ温かさ」や、人と企業との信頼関係がどうあるべきかといったことを再認識することができました。こうした面についても、クラウドの特性を生かし「新しい新聞の価値」へつなげていければと考えています。

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